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49話 ページ49

冨岡side


「重症ですよ、彼」

屋敷の主である胡蝶しのぶは眉をひそめてそう言った。

蝶屋敷。

ここには治療をする物がたくさんそろっている。

そのため隊員が怪我をするとまずここへと運ばれ治療が行われる。


「冨岡さん、突然重症の患者を連れてきたと思ったら止血もしていないなんて、どういう事でしょうか?」

胡蝶は口元は笑っているが、目は怒っていた。

花之森が対峙していたのは十二鬼月という十二人で構成される鬼の組織の一人だった。

下弦の陸。

十二鬼月には、上弦、下弦で別れており、どちらも六名の鬼が組織されている。

そしてそれを統括する鬼も当然のようにいる。

「何かおっしゃったらどうなんです?」

何も言わない俺に胡蝶が大きく息を吐く。

「彼、花之森Aくんと言いましたね。しばらく蝶屋敷で預からせていただきます…それと、二人の関係を詮索するわけじゃないですけど、あんなに大事そうに抱いてくるのならもっと大切にしてあげてください」

俺たちの関係?

俺は水の呼吸の使い手で、花之森はその継子として鱗滝さんから預かっただけだ。

それ以外に何もない。

それに大事そうにと言うが怪我をしていたから抱えてきただけだ。

「また何か一人で考えごとですか?ならちゃっちゃと帰ってください、私は重症の患者を抱えて忙しいんですから」

「…花之森の事を頼む」

「言われなくても乗り掛かった舟ですから、彼がちゃんと復帰できるまでしっかり面倒をみますよ」

部屋を出て行こうとすると、胡蝶に呼び止められる。

「今日はあなたもゆっくり休んでください。顔色が悪いですから」

俺は無言のまま、蝶屋敷をでた。

遠くの空が朱を帯はじめ、朝が近いことを知らせている。

鬼共はそろそろ姿を隠す時間だろう。


…………

……

…。


花之森の面に傷がついていた。

それを見た瞬間、何故か胸が締め付けられそうになった。

俺は胸に手を当てる。

穴なんか開いていない。

なのに、胸に穴が開いたかのように空虚で寒い。

「何故…」

頭を整理するために、そう呟いたが俺はその考えに蓋をした。

何かが体の内側から、どろりと流れ出てきてしまいそうなのを感じたからだ。

「……羽織が破けていたな」

いつまでたっても動かない自分に言い聞かせるように呟くと足を前へ出した。

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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時

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