27話 ページ27
「錆兎」
俺は、錆兎と会った釣り場に来ていた。
そして彼はそこにいて、始めて見た時と同じように、大岩に座っていた。
「まだ、こんな所をうろうろしていたのか」
久ぶりに会い、始めに交わした言葉には棘があった。
こんな話し方しなかったのに。
いつも角のない言葉で、話して笑っていたのに。
一体どうしたと言うんだろう。
気の障ることを言っただろうか。
「何を突っ立ってる、用がないのなら去れ」
突き放すような言葉に、黙ったままではいけないと、今日彼に会えたら話そうと思っていたことを口にする。
「最終選別に行く、あと何か月か後に…」
「……それで?」
「それで、錆兎に会いに来た」
「何故?俺は死ぬといったんだぞ、遺言でも言いに来たか?」
「…なんで、そんな風に言うんだ?」
すごく嫌な空気だった。
こんな喧嘩のような言い合いをしに、来たわけじゃないのに。
出会った頃の錆兎はどこにいってしまったんだ。
「俺が諦めなかったことを、怒ってるのか?」
「そうだ」
はっきりとそう言われて次の言葉が出てこない。
黙り込んでいると、彼は岩からふわりと降り立ち、こちらに歩みを進める。
「今ならまだ戻れる、戻れ……戻る場所がないのなら、ここに居ればいい、俺たちと…」
前に立った彼は、そう言いながら俺の髪をゆっくりと撫でた。
俺たち…?
俺たちって誰だ?ほかにも居るのか?誰かが…。
「錆兎」
面越しに見つめ合っていると、彼の背後から声が聞こえて、彼は振り返り、俺は肩越しに覗き込む。
そこに立っていたのは、かわいらしい女の子だった。
彼女も錆兎のつけている物に似た狐の面を頭に掛けていて、花柄の着物がよく似合っている。
「その子が錆兎のお気に入りの子?」
「…そんなんじゃない」
「あ、照れてる」
「茶化すな」
ご機嫌というように今にも鼻歌でも歌いだしそうな足どりで、こちらに近づいてくると、俺の隣に立った。
「はじめまして、私真菰、あなたがA?」
なんで俺の名前をしっているんだ?
俺が首をかしげると、真菰という女の子はにこにこしながら同じように首をかしげたのだった。
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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時