24話 ページ24
「久しいな、A」
滝行を初めて数日経った頃、錆兎と会うことができた。
鍛錬を初めてすぐに、彼とは会う機会があり、その時に暫く釣りには来れないと言っていたので、大体1か月ほど彼とは会っていなかった事になる。
俺は滝行を一段落させ、焚火に当たり、昼飯を食べている所だった。
彼は魚二匹を俺の目の前に突き出し、食えと言う。
俺は前におにぎりを渡したときに喜んでいたのを思い出し、持ってきていたたおにぎりを彼に渡した。
「滝行をしていたのか?」
頷くと、彼の顔が滝へと向く。
「春先とは言え、冷たいだろう」
そうなのだ、春先だが、とても水は冷たく邪念を捨てるどころか「冷たい寒い」と逆にそればかりを考えてしまうくらい冷たい。
そのせいで呼吸法がなかなかできずに困っていた。
香ばしく焼けた魚を彼が俺に差し出すので、それをむしゃむしゃ食べ始める。
しばらく錆兎は黙っていたが、もうすぐ一匹が食べ終わる頃になると口を開いた。
「何故滝行をする?」
何と説明すればいいだろう。
錆兎は鬼殺隊を知っているだろうか?
「鬼殺隊、っていう所に入るため、かな…」
「鬼殺隊…?」
錆兎は今、おにぎりを食べ終わったばかりで、面を外していた。
じっとこちらを見つめてくる彼の視線に、俺は居心地の悪さを感じ、顔を背ける。
「やめておけ、お前にはなれない」
何とも言えないこの空気が、早くどうにかならないかと考えていると、そんな言葉が聞こえて、俺は目を丸くした。
顔色こそ変えないが、彼の声は何故だか怒っているように聞こえる。
「お前は軟弱だ、鬼殺隊に入る前の”最終選別”で命を落とす」
俺は確かに軟弱だ、筋肉だって少ないし、体に厚みもない、だけどまだ鍛錬を始めたばっかりだし、それは仕方がない事だ。
「俺は心配をしているんじゃない、事実を言ったまでだ、お前は弱い」
その通りだ。俺は弱い。
今のままじゃ、錆兎の言う通り最終選別でいたずらに命を落とすだけだ。
俺は何も言えなかった、ただ事実を言われただけで、怒りも悲しみもわいてこない。
けれど落胆もしていない。
俺はやる。やらなければいけない。死ねない、受からないと何としても。
炭治郎の力になるために。
「俺はもう行く、馳走になったな。もう無駄なことはせず早く帰れ、夜は鬼が出る」
そういうと彼は静かにその場から離れていった。
その背中からは先ほど感じていた怒りの感情はなく、とても寂しそうで、悲しそうだった。
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作者名:矢月 | 作成日時:2020年2月15日 13時