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私はお市様らしき女が部屋を出たと確認した後、手を放して大きく息を吸った。
「はぁ……お市様、だったのか?」
 埃で汚れたズボンを軽く叩きながら独り言を思わず呟く。今はこうでもしないと自分を保てなくなりそうだ。

 私は急いで里香の無事を確認するために急いで廊下へつながる扉を勢いよく開けた。

「理……香?」
 私の足元に、長い黒髪を床に花のように散らばし、最近流行りの柄のスカートを広げて見開いた目を私に向けている女が倒れている。

 これは里香じゃない。里香はいつも怖いことが嫌いで私にしがみついてくるあの子だ。こんなの里香じゃない。こんな血だらけな里香なんて里香じゃない。あの綺麗好きな里香がこんな血まみれになっているわけがない。

 いつも私に駆け寄ってきてくれるあの足がない里香なんて、里香じゃない。里香じゃない里香じゃない里香じゃない里香じゃない里香じゃない……!

 私の頭がぐるぐると周り、現実を受け止めることを必死に拒否する。いや、頭で理解はしていても、心が事実を必死に拒む。

「里香……」
 絶望と悲しみに、私は床に膝をつきへなへなと崩れた。徐々に心が現実を理解し始める。血だらけのこのスプラッター映画のワンシーンのような里香の姿と親友を失ったという事実に、涙と同時に胃液がこみ上げてきた。

 里香の足の傷口に私の涙が混ざる。紺色の私のジーンズに少しずつ里香の血が染み込む。私はその感覚が嫌で立ち上がり、急いでその場を離れた。

 正常な息ができない。過呼吸、というものだろうか。今はそんな自分のことより、あの里香のことが頭から離れない。
 いつもの笑顔と、さっきの恐怖と絶望に染まったひどい顔。その体には足がなかった。それは比喩的表現ではなく、下半身がまるで鋏で切られたかのようになくなっていた。あぁ、思い出すだけでまた吐き気がする。もう考えるのはやめよう。

 私はおぼつかない足取りでふらふらと隣の部屋に倒れこむように入った。

 一人になった途端、精神的な疲れがどっと押し寄せた。もう何も考えたくない。私は部屋の真ん中でうつぶせに寝転がった。この部屋は日本人形も何もないため寝返りも十分にできる広さだ。

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作者名:エメラルド | 作成日時:2018年2月27日 11時

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