2 ページ36
「そういえば、この前の模試の結果どうだった?」
彼女は俺が先ほどまで解いていた小テストの丸付けをしながら、俺にそう問うた。
高校三年生への進級を5か月後に控えた俺たちは、先日、全員揃って有名予備校主催の模試を受けさせられた。
定期試験は得意な一方で、範囲を決められていない模試が苦手な俺は、やっぱり今回も振るわない結果になるだろうと思っていた、の、だが、
「あー、受けた日にも少し言ったと思うけど……」
俺がそう言うと彼女はにやりと笑った。
「結果、良かったんでしょ?」
「良かった、んだよねえ……」
返却された個別成績表には、今までの俺からは考えられないような点数が並んでいた。
校内での順位も特進コースの生徒を抜き、二桁前半に入っている。
担任からは、芸能・スポーツコースの生徒がこの順位に入るのは初めてだ、と言われ、そこら辺の大学ではなくそれなりに名の通った大学を目指さないか、と勧められたくらいだ。
俺はこの結果が彼女の指導力の賜物であることを十分に理解していた。
英語の長文の読み方。古典の語彙。微分積分の解法。
全てこの部屋で、彼女によって俺に与えられたものだった。
それは、俺の中に彼女の能力の何百分の一が宿っているような気分で、心地よかった。
俺は担任から言われた言葉をそのまま彼女に告げた。
すると、彼女は一気に顔を明るくさせ、凄いじゃん、と嬉しそうに言った。
「やっぱり、龍斗くんが頑張ったからだね!」
「俺が頑張ったって言うより、Aの指導力のおかげって感じがするんだけど……」
俺が控えめにそう言うと、彼女はそんなわけないから!と言い切った。
「龍斗くんが、頑張ったからだよ?私はちょっとだけ龍斗くんのお尻を引っ叩いただけ」
何の淀みもない瞳。真っ直ぐに向けられた視線。
俺は、彼女の言葉に嘘やお世辞が含まれていないと分かった。
だからこそ、嬉しくて、でも少しだけ恥ずかしくて――
俺は照れ隠しに、ちょっとっていうより大分だけど……と冗談を言ってみせた。
「じゃあ、龍斗くんは大学進学を目指すの?」
「……うん、大学は絶対に行く」
これは、俺の中ではほぼ確定事項になっていた。
その理由には、学を身に着けたいことや、将来どうなっても――それこそアイドルを辞めても――生きていけるようにすることも含まれていたが、それ以上に彼女の存在が大きかった。
215人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
れお(プロフ) - あさん» 初めまして。コメントありがとうございます。例の件に触れているため、あまり読んでもらえないだろうと思っていたのですが、そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです。これからもゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。 (2020年8月28日 0時) (レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。例の件について触れている事で低評価を押されている方がいらっしゃるのかもしれませんが、とても素敵で面白い作品でした。ありがとうございます。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 7cf7088bde (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:れお | 作成日時:2020年6月18日 15時