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俺は、そんなんじゃないから、と言うと、好奇心から彼女に鎌をかけることを決めた。
「……そういうAは彼氏とか好きな人とか、いないの?」
思えば彼女とこういう話をしたことは今までに一度もなかった。
普通なら、何かしらそういう話題くらい出るはずなのに、不思議と恋人がどうとか、好きな人がどうとか、そんな話をしたことがなかった。
だからこそ、俺は彼女を取り巻くそうした事情が気になっていた。
彼女はそんな俺の思いなど露知らず、急にどうしたの、と聞いて笑った。
「……好きな人はね、いるよ」
「……え、いる、って今言った?Aって、好きな人、いるの?」
「いるけど……?」
予想だにしていなかった返事に驚く俺をまじまじと見つめながら、彼女は驚きすぎじゃない?と言った。
俺は彼女に対して、どうせ優秀でエリートな彼氏を持っているのだろうと思う反面、誰かと付き合って、キスをしたり、抱き合ったりしている場面がなかなか想像できなかった。
というのも、彼女の中には、子供のような純粋で神聖な部分がある気がしていたからだ。
例えるなら、神話の中に出てくる聖母。
永遠に誰のものにもならない。永遠に綺麗なままで居続ける。そんな存在だ。
だからこそ、そんな彼女をある種の欲望で汚す男を俺は見てみたかったし、もし存在しないのならば、俺は彼女の最初で最後の人になりたいとさえ思い始めていた。
「え、それって、えーと、付き合ってる人ってこと?」
俺がしどろもどろに聞くと、彼女は頭を振り、そういうわけじゃないんだけど、と否定した。
「ずっと、好きな人。私が高校生の時から、ずっと好きな人なんだ」
高校生の時から。
それは、俺と出会う何年も前からと言うことを意味し、同時に彼女を構成する要素のうち、俺が全く知らない部分だということを示していた。
胸が苦しくなる。
彼女の「好きな人」のカテゴリに俺が存在しないことをこうも明白に突き付けられるとは思ってもいなかった。
勿論、自分に少なからず好意を抱いているんじゃないかなんて自惚れていたわけでもないのだが――それでも、ここまではっきりと言いきられると、平常心ではいられない。
「じゃ、じゃあ、そんなにずっと好きなら告白したこともあるの?」
「……そういう好きじゃ、ないからなあ」
彼女はそう言うと、困ったように笑った。
俺は彼女の言っている意味がいまいち分からなかった。
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れお(プロフ) - あさん» 初めまして。コメントありがとうございます。例の件に触れているため、あまり読んでもらえないだろうと思っていたのですが、そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです。これからもゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。 (2020年8月28日 0時) (レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。例の件について触れている事で低評価を押されている方がいらっしゃるのかもしれませんが、とても素敵で面白い作品でした。ありがとうございます。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 7cf7088bde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れお | 作成日時:2020年6月18日 15時