君と過ごした深夜のこと1 ページ23
10月に入ると、9月までの暑さが嘘のように吹き飛んでいった。
だからといって、さわやかな秋晴れといえる気候でもなく、どこかどんよりとした天気が続いている。
太平洋のもっと南の方ではいくつも台風が発生しているらしく、当分太陽のお目にかかる機会はなさそうだ。
俺としては晴れている日の方が好きだし、雨が降ると駅から学校までの道が面倒ったらありゃしないから雨なんて御免だ。
こんなことならどんなに暑くても夏の方が良い。
まして台風なんて、休校になればまだマシだが、東京に上陸する頃には熱帯低気圧になっていることがほとんどで、交通機関をめちゃくちゃにするだけ。
だから毎年この時期は憂鬱なのだ。
その話を彼女にすると、まー涼しいし暑いだけの夏よりはいいんじゃない?とゆるい返事が返ってきた。
俺がどうでもいい話をすると、彼女は決まって気の抜けた返事をしてくる。
まるで、自分にはもっと大切なものがあるんだとでも言いたげに。
そういう、少し余裕を見せた態度が、俺の知らない世界を知っているようで、俺をたまにいらつかせた。
そんなある日、俺は叔母さんからの言伝を思い出し、話を切り出した。
「もし知ってたら悪いんだけど、Aってさ」
「うん?」
「次の金曜から3日間叔母さんたちが出かけるって聞いた?」
「え、知らないけど。どこ行くの?」
「茨城のおばあちゃんの家。叔父さんが休み取れなくて夏に帰省できなかったからこの時期に行くんだって」
「あー叔父さんの仕事夏が繁忙期だもんねえ」
レジャー関係は大変だ、と目を細めて彼女は言った。
叔父さんは旅行代理店に勤めているのだ。
「龍斗くんも行くの?」
「いや、俺は行かないよ。夏に家族で行ったし、そもそも学校だってあるし……」
眼を泳がせながらそんなことをしどろもどろに言う。
本当は、夏におばあちゃんの家になんて行っていない。
学校だって1日くらいなら休んだってなにも支障はない。
俺は適当な嘘をでっち上げたに過ぎないのだ。
唯一本当なのは、俺一人だけが家に残るということだけ。
というのも本当は金曜の夜に事務所に出向いて今後についてマネージャーと話をする予定が入っているのだ。
けれど、こんな後ろ指をさされそうな背景を語ることもできず。俺はどうでもいい嘘を固めることしかできなかったのだ。
ふうん、と彼女は俺のことをじっと見つめてくる。
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れお(プロフ) - あさん» 初めまして。コメントありがとうございます。例の件に触れているため、あまり読んでもらえないだろうと思っていたのですが、そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです。これからもゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。 (2020年8月28日 0時) (レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。例の件について触れている事で低評価を押されている方がいらっしゃるのかもしれませんが、とても素敵で面白い作品でした。ありがとうございます。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 7cf7088bde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れお | 作成日時:2020年6月18日 15時