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彼女は「そんなことより」と前置きすると、今はとにかく復習テストの続きをやれという指示を俺に出し、引き続きまじまじと俺の掲載されている雑誌に見入った。
流石に目の前で自分の載っている雑誌――その上表紙も俺と俺の仲間だ――を読まれると、なかなかペンも進まない。
自分の顔と対面しながら受けるテストほどやりにくいものもない。
しかしこのテストの点数が振るわなかったときの方が、もっと不都合なことになると分かっていたため(彼女は復習テストの出来なかった部分を宿題の範囲に加えるのだ)なんとか彼女の存在を視界から消しつつ積分をやっつけていく。
……彼女のiPhoneから無機質な電子音が鳴る。
テスト終了の合図だ。
いつも、彼女はこの音が鳴ると同時に俺の前からテスト用紙を抜き取り、採点を始めるのだが、今日は違っていた。
「龍斗くんのお誕生日って30日なの?」
「……え?」
「だから、龍斗くんのお誕生日って今月の30日なの?」
だしぬけに問いを投げかけられ戸惑ってしまう。
しかも、勉強とは全く関係のない、俺にとっては生まれた時から当たり前の質問だった。
誕生日はいつなの?と聞かれることは今までの人生で、そう少なくない数あった。
誰だってそうだろう。
しかし、こうして「あなたの誕生日は9月30日ですよね?」と確認するように聞かれた試しはなかったため予想外に固まってしまった。
もしかして彼女は俺をおちょくっているのか?とも思ったが、彼女の顔は真剣そのもので、そういうわけでもないらしい。
なんで今誕生日を聞かれているんだ?そもそも俺、Aに誕生日教えたことあったっけ?と思考を巡らせる。
しかし、彼女の手に収まっている雑誌から、ああ、そういうことか、と一瞬で納得した。
「この雑誌に書いてあった。2002年9月30日生まれ、神奈川県出身って」
やはり。
予想的中。
彼女はどうやら雑誌に掲載されていた俺の基本プロフィールから情報を得たらしい。
自ら発信したつもりのない情報も、相手は知っていることが多々あるから、アイドルって不思議な生き物だなあと自分でも思う。
こういう感覚は、未だに不思議だ。
何とも言えない違和感が拭えない。
でも、彼女が俺の情報をわざわざ紙面から探し出したという事実が少しだけ嬉しかった。
同時に、照れ臭くもあって、俺はyesと言う代わりに曖昧に笑って見せた。
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れお(プロフ) - あさん» 初めまして。コメントありがとうございます。例の件に触れているため、あまり読んでもらえないだろうと思っていたのですが、そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです。これからもゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。 (2020年8月28日 0時) (レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。例の件について触れている事で低評価を押されている方がいらっしゃるのかもしれませんが、とても素敵で面白い作品でした。ありがとうございます。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 7cf7088bde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れお | 作成日時:2020年6月18日 15時