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「ア、アイドル……?」
「そう。ジャニーズ、に入ってるんだよね」
「え、ええーー……」
信じられません、というような顔をして狼狽える彼女。
俺よりも三つも年上なのに、その姿が妙にあどけなく見えてしまって仕方がなかった。
彼女は無言のまま表紙をめくると、目線をこちらに向けて格好つけている俺と、俺の仲間たちのグラビアに目を通した。
そこに写っている俺は、紛れもなく「アイドル」で、ただの何の取り柄もない男子高校生になってしまった今の俺とのコントラストに目が潰れそうになる。
しかし彼女はそんな俺などお構いなしにページをめくっていった。
「でも、そうだよね。龍斗くん、凄く格好良いもんね……」
俺の顔をじっと見つめて小さくそう言う彼女。
恥ずかしい反面、彼女のその言葉に少しだけ嬉しく思う俺がいた。
それはきっと、変な色気が含まれておらず、どこか夢を語る子どものような無邪気ささえ感じられたからだろう。
今までも何度だって同じような言葉は言われたことがある。
それこそ、夜の街では何度も何度も繰り返し女性から、格好良いね、流石アイドルだね、と声をかけられてきた。
けれど、そのどれもが薄汚い色を帯びていた。
俺に対して、性的な視線を――いや、「この人と肉体関係を持てばステータスになる」という下心をぶつける人たち。
大抵、俺の気を引くような言葉を言うのはそういう人たちだった。
もはやそこには「俺」という個人は存在せず、ただ「アイドル」という身分しか見てもらえなかった。
でも、彼女の視線や言葉にはそういった不純物が混じっていない。
彼女も同じ言葉を放ったのに、どうしてこうも印象が違うのか。
俺には不思議で、でも心地よくて。
俺は少しでも長く、そのぬるま湯のような暖かさに浸っていたくて、その理由を探ることをやめた。
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れお(プロフ) - あさん» 初めまして。コメントありがとうございます。例の件に触れているため、あまり読んでもらえないだろうと思っていたのですが、そんな風に言っていただけて本当に嬉しいです。これからもゆっくりですが更新していきますので、よろしくお願いいたします。 (2020年8月28日 0時) (レス) id: 8293f3a179 (このIDを非表示/違反報告)
あ(プロフ) - 初めまして、コメント失礼致します。例の件について触れている事で低評価を押されている方がいらっしゃるのかもしれませんが、とても素敵で面白い作品でした。ありがとうございます。 (2020年8月27日 20時) (レス) id: 7cf7088bde (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:れお | 作成日時:2020年6月18日 15時