第34話 ページ36
薄暗い森の中。
ゆっくりと、でも確かに地を踏みしめるように歩く足音のみが響く。
ハク「……姫…ヨナ姫」
貴女「ちょっと休むかい? お姫さん」
姫だけあってあまり体力はないようで、ヨナ姫は木にもたれて座り込み、荒い息を吐きながら、小さく従者の名前を呼んだ。
ヨナ「ミンスは…死んじゃったの? ハクも、あなたも、スウォンに……殺されて」
ハク「あんなクソッタレにやる命なんて持ち合わせてねェですよ」
ヨナ「死なないでね…ハク。死んだら…許さない…から……」
そう呟くとすぐに、疲れが限界まできていたのか眠りについた。
貴女「随分と信頼されてんのな、あんた」
ハク「あ?」
あたしはふっと笑んだ。
貴女「…けど、スウォン様の事クソッタレって言ったのは気にくわないね。あたしにとっては主だ」
ハク「……あいつが主なら、あいつに仕えればいいんじゃないのか」
貴女「…それは、できない」
あたしは即答した。
貴女「あたしは、彼女に仕えて償いがしたい。…ソン・ハク、あんたにも」
ソン・ハクの顔をしっかりと見上げて、目を合わせる。
こちらを推し量るような瞳が怖かったけれど、決してそらしはしなかった。
すると、
ハク「…その
…と言われたことで、一応の信用は得られたらしいことがわかった。
貴女「なら、改めて。あたしはA。職業は海賊…だったけど、今は無職って事になるのかな?
…よろしく、ソン・ハク」
ハク「…その呼び方何とかならねえのかよ……」
貴女「え? あ…じゃあ、ハク。よろしくね」
あたしがそう言うと、ソン・ハク…じゃなかった、ハクはこちらこそ、と返してくれた。
ふと、ハクは眠るお姫さんを見て、まだ信じられない、とぼやいた。
無論、信じられないのは陛下が死んだ事だろう。
ハク「姫を独りにして…ほんとしょーもねー王様だよ」
でもその言葉は、本当の気持ちとは裏腹で。
…彼が昔から見てきた、汚れや痛みなど知らないこの姫は、箱庭の中で暮らしていた。
急に囲いがなくなったこの世界を、姫は今どう受け止めているのだろう。
ハク「なあ…陛下、どうすればいい……?」
独り言のように呟いたその声は、虚空に消えた。
それからハクは、懐かしむように昔話をしてくれた。
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ひじり(プロフ) - 設定とか色々好きです!!更新待ってます!!!! (2021年6月14日 1時) (レス) id: a9637b57df (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:心太 | 作成日時:2018年8月26日 6時