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「………っ、」
強くなってきた雨が、俺の頭をガンガンと刺激する。
もう。最悪だ。
何度目か分からない悪態を心の中で呟きながら、頭痛を刺激しないようにゆっくりと歩く。
「……へ、ちょっ…、!」
道の途中に、傘もささずに蹲っている人影を見つけて慌てて駆け寄る。
俺の傘に入れると、その人は俺に気が付いたのか顔を上げた。
「……っ、ふふっ、………ぅっ、はっ、ふ、」
笑いたいのか、苦しいのか、どっちなんだこの人は。
雨に濡れた彼の重ためな前髪のせいで、全く表情は見えないけれど、荒い呼吸の中で、彼は確かに笑っている。
そんな状況とは対照的な彼の右手は、苦しそうに胸の辺りの服をキュッと握っている。
「……ねぇ、」
空いていた俺の左手を彼の左手がグッと引っ張って、彼の口許が俺の耳元に。
“俺を拾ってよ”
確かに、彼はそう言った。
簡単に彼の俺を引っ張る力が抜けて、必然的に彼から離れれば、彼の身体はいとも簡単にアスファルトに打ち付けられた。
「…ぇ、ちょっと、…ねぇ……!」
揺さぶっても彼は起きなくて。
とりあえず、俺の家に運ぼう。
救急車を呼ぶとか、もっと他に最善な方法はあった筈なのに、その時の俺は、何故だかそう思ったんだ。
「…ぅ、さいあく、」
濡れた彼は、俺よりも全然背が高くて。
具合の悪い俺には少し辛い。
半ば引っ張るようにして、彼を背負いこんだ俺は、ずるずると重たい足を動かしながら、俺の家に向かった。
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作者名:紗彩 | 作成日時:2022年9月9日 18時