貴方でした4（赤） (ページ13)

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「私が…そう思った人は私より年上なのに
　不器用な人でした。
　ただただ、真っ直ぐで…嘘のつけない、優しい人でした。」

私はマイクをギュッと握りしめる。

「私を押すその手はいつも温かくて、強いものでした。
　ただ、私は…まだまだ弱くて。
　その手を払いのけてしまいました。
　…きっとその人も私を押すことで自分を再確認していた。
　…今はそう思います。
　私が背中を預けられなかった。
　臆病者で逃げてしまったんです。
　支え合うことに…。」

「でも、私は気付きました。
　逃げていたら何も伝わらない。
　私が変わらないと、支え合えるわけがないなんてことに。」

「だから、私は今ここに立っています。
　私の思いがいつかその人に伝わりますように。
　私の歌で、誰かの心が動かせるように。

　そんな空間を下さったマスターには感謝しかありません。」

そう言うと、みんなが一斉にマスターに拍手を送った。

マスターはいつも通り優しい笑みを浮かべながら

マ『Aちゃんの力だよ。
　君はもう強い。
　だから今日だってほら、
　君の歌声が聴きたい人で満席だよ。』

今度は私に拍手が送られる。

『ありがとうございます。
　これからもどうか、聴きに来てください。
　それでは最後の曲です。』

私は彼と初めて出会った時に歌った曲を歌った。

今日1番の拍手が湧き上がる。
目の前のすばる君も拍手をしてくれている。
だけど、表情までは分からなかった。

たくさんの拍手をもらい、
お辞儀をして顔を上げるともうすばるくんは席にいなかった。

一度裏方に戻り、
ドレスのままお店の外に走って飛び出した。

すばるくん

すばるくん…！

私の思いも虚しく、もう彼の姿はどこにもなかった。

電話をしても繋がることはなく

“今日は来てくれてありがとう”

メールを入れてその日は終わった。

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