妖精族の末裔ちゃん

身支度は念入りに ページ28

すっかり元気になったAは今日からまた見学生として復帰することになった。そんな本日の予定はセベクと共に授業を受けることである。初日はマレウスの隣が落ち着くだろうというリリアの計らいがあった。


Aがここに置いてもらえる理由の一つとして、魔法の扱いを覚えることも含まれている。そのため、1年生であるセベクと共に魔法に関する基礎を学ばなければならない。そんな新学期早々の朝の出来事である。


「セベクセベク！」


城にいた頃と変わらず、元気いっぱいに抱きついてくるAを見つめて、本当に元気になられてよかったと嬉しい気持ちが溢れるセベク。先日の辛そうな様子を見ていたこともあり、思わずそのか弱い存在を抱きしめてしまう。


「…セベク？どうしたの？」


「元気になられてよかったです！今日はご一緒に授業を受けましょう！」


「Aはげんきよ、セベク！……えへへ、セベクといっしょでうれしい」


そんな可愛らしいことを言ってくれる幼いお姫様に朝から骨抜きにされてしまうセベクであった。


「A様、まだ御髪の支度が終わっておりませんよ」


「シルバー！おはよう。かみ、きょうはどうしてくれるの？」


ブラシとリボンを両手に持ったシルバーはAを呼び止める。そんな彼に気がついたAはセベクから離れるとシルバーに駆け寄る。一度手近な談話室のテーブルにブラシとリボンを置くと、低い位置にある頭を毛流れに沿ってするりと撫でる。


「どんな風にしたいかリクエストはありますか？できる範囲で応えます」


「…うーーん、そうだなー」


可愛らしく唸りながら悩むAの小さな手を引いてソファに座らせると、柔らかい手触りの髪に触れる。


「かわいいの！かわいいのがいい〜！」


中々抽象的で難しいお題が来たな、と苦笑を漏らしながらも、かしこまりました、と返事をすると一度全体をブラシで念入りに梳かす。それから髪をざっくり二つに分けると持参したリボンと共に編み込んで、お下げの三つ編みを作り上げる。最後に三つ編み部分を緩くひきだす。仕上げに形状記憶の魔法をかけると、Aの顔に笑顔が咲く。


「わぁあ〜！！かわいいわ！ありがとう、シルバー！」


「お気に召して頂けてよかったです。」


太陽のような笑顔を浮かべたAのおかげでいつもの眠気が少し無くなったように感じるシルバーは手の甲へ唇を落とした。


敬愛はもちろん、今日も良い1日になりますように。そんな願いを込めて。

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