顔面で殴る ページ32
言葉の割に優しいその抱擁をAは知らない。記憶の中の悟はもっと強引で、まして"可愛い"なんて言葉などかけてくれた記憶はない。自分の知らない悟の一面にやはり寂しく思うも、またドキドキしてしまう自分もいる。心臓がうるさくて顔が熱くて、そんなはしたない顔を悟に見られたくなくて俯いてしまう。
「なあ、顔見せて」
「…ゃっ…」
一方で悟は自らの腕の中で初心な反応を示すAが可愛くて可愛くてしょうがない。出会ったばかりの頃に押し入れで見せた表情を思い出して、まるであの時に帰ったような気持ちになる。五年前は悟が振り回されることが多かったが、今ではもう違うとそう思いたい。
耳まで真っ赤に染まった顔を小さな手で精一杯隠すその行動のいじらしさに"少しいじめたい"と悟の口角も自然と上がる。
その両手を掴んで強引に剥がすと、潤んだ琥珀の瞳とやっと目が合った悟は、にまりと藍玉を細めた。そんな風に悪いことを考えてる顔は記憶の中の悟と同じなのに、大人びた鼻筋に記憶よりも伸びた髪の毛はどこか違ったように思えて、早鐘を打たせる。Aがそんな悟の暴力的な顔面の良さにやられて、唇を震わせた。
「なぁに？俺の顔、そんなに好き？」
「ぁう……」
すきだけど、もうゆるしてください。
＊ ＊ ＊
それから日々が目まぐるしかった。歩くことはおろか、立つことも難しく始めは杖をついていたが、徐々に自らの脚で歩ける距離を伸ばしていった。まだ長く歩くことや激しい運動は出来ずとも、日常生活にはほとんど困らないほどまでには戻った。
また、幼さを感じさせる辿々しい話し方も、天野や病院の看護師や医師達とのコミュニケーションを経て少しずつ体に追いついてきた。
そんな目覚ましい回復にも献身的な天野の支えと、高専で過ごし、忙しいであろう中で毎日病院まで通ってくれる悟とまた一緒に過ごしたいというAの意思の強さ故の結果であったともいえよう。そんな折であった。
「…本当ですか？！」
「ええ。私達からしても驚くべき回復力です。歩行も食事も問題ありません。そろそろ退院しても良いでしょう」
「…先生や悟くん、ばあや、えと、八重さんたちのおかげです！すぐに悟くんに伝えに行ってきてもいいですか？」
明るい笑顔を浮かべたAは担当医が返事をする前に診察室を後にしてしまった。担当医の"五条くん、お友達が来てるとかで…"という言葉は届く前に診察室の引き戸に挟まれて消えてしまった。
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みるたそ - 礼さん» 早速リクエストさせていただきます！病院の窓から見える世界はきっと夢主の知らない物ばかりなので、あれは何？あれは？と五条さんに聞く夢主と、それを優しく答えてあげて甘やかす五条さんのお話を見てみたいです！ (2021年3月7日 14時) (
レス) id: 2548faf38b (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - みるたそさん» ご覧になったんですね〜ありがとうございます。はい！お気軽にどうぞ(^^) (2021年3月6日 23時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
みるたそ - お知らせ見ましたー！リクエスト可能ということですかね(＞＜) (2021年3月6日 18時) (レス) id: 2548faf38b (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - みるたそさん» コメントありがとうございます。主人公のことを愛らしいと言ってくれてありがとうございます（ ; ; ）人を選ぶ主人公ではありますが、そう言って頂けることが励みになります。重ねて感謝です！ (2021年3月6日 0時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - 瑠璃さん» お返事遅れて申し訳ないです。コメントありがとうございます！私好みの女の子とわちゃわちゃする五条さんが見たくて書き始めたのでそう言っていただけて感無量です。二人の今後を見守ってくださると嬉しいです(>_<) (2021年3月5日 23時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：礼 | 作成日時：2021年2月1日 0時
