目覚め ページ30
しかし無情にも彼女が悟の手を握り返すことも、その瞼の下に隠された琥珀が彼を写すことは無く五年の歳月が過ぎた。その五年という歳月を悟は足繁くAの病室へと通い、彼女が生きてる証である生命維持装置の音を聞いては胸を撫で下ろした。
ほぼ毎日飽きもせず、彼は何も話さない彼女の手を取ってその日にあったことを話し、決まって最後には額に口づけを落とした。それはさながら儀式のようでもあった。彼女が目覚めますようにと願いを込めて。
＊ ＊ ＊
その日はあの忌まわしい事件から実に五年も経ち、あの日と同じように月が綺麗な夜だった。いつものように彼女の細い指に自分の指を絡めて、高専での出来事を話す。同級生が二人いて、なんだかんだ仲良くやってるだとか。本当に日常のありふれた話だった。
その時、ふと悟の口からずっと口に出来なかった言葉が転がり落ちた。
「なあ、A。…お前、あの時何を言おうとしたんだ？」
____…さと、るくん……、……
あのときの瞳が固く閉ざされた瞬間は鮮明に覚えているのに、彼女が紡ごうとした唇の動きだけは記憶の中から日を追うごとにサラサラと零れ落ちてしまった。なんて薄情なのか。その時だった。
ぴくり
「…？」
悟の呼びかけに応えるように暫く誰も写すことのなかったその琥珀の瞳がそろりと姿を現した。
「A！」
「…………」
慌てた悟は枕元のナースコールを乱雑に押すと、待ち侘びた彼女の目覚めに対する喜びを抱きしめて表現したかったが、負担をかけまいとぐっと抑えた。その行動を褒めて欲しい。それから悟は涙が溢れないように天を仰いだ。
通常なら外に出されるところであるが、ここは呪術師と提携している病院であるため、医師達の診察を受けるAの姿を悟はすぐそばで見守っていた。
忙しなかった医師達が診察の結果は明日お伝えします、というと病室は静寂に包まれた。
どこかまだ意識がぼんやりしているのか、少し眠たそうな印象を受けるA。彼女は五年もの間寝たきりであったため、まずは日常生活を送るためのリハビリから始めると医師からそれだけは伝えられた。
「…A」
「………」
その口からは乾いた息が漏れるだけで音にはならなかったが、よく知った動きをしていた。誰に呼ばれるよりも愛おしくて切なくて甘美なそれ。その姿を見ることが出来るだけで先程は抑えられていたはずの涙が悟の頬を伝った。
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みるたそ - 礼さん» 早速リクエストさせていただきます！病院の窓から見える世界はきっと夢主の知らない物ばかりなので、あれは何？あれは？と五条さんに聞く夢主と、それを優しく答えてあげて甘やかす五条さんのお話を見てみたいです！ (2021年3月7日 14時) (
レス) id: 2548faf38b (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - みるたそさん» ご覧になったんですね〜ありがとうございます。はい！お気軽にどうぞ(^^) (2021年3月6日 23時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
みるたそ - お知らせ見ましたー！リクエスト可能ということですかね(＞＜) (2021年3月6日 18時) (レス) id: 2548faf38b (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - みるたそさん» コメントありがとうございます。主人公のことを愛らしいと言ってくれてありがとうございます（ ; ; ）人を選ぶ主人公ではありますが、そう言って頂けることが励みになります。重ねて感謝です！ (2021年3月6日 0時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
礼(プロフ) - 瑠璃さん» お返事遅れて申し訳ないです。コメントありがとうございます！私好みの女の子とわちゃわちゃする五条さんが見たくて書き始めたのでそう言っていただけて感無量です。二人の今後を見守ってくださると嬉しいです(>_<) (2021年3月5日 23時) (レス) id: ede101bd3d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：礼 | 作成日時：2021年2月1日 0時
