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〜130 ピットside ページ30

「どうぞ、召し上がれ。」


女性にパン屋さんの中へ入るように頼まれた。
言われた通りに中へ入ると、女性は手のひらを返したように表情と声色が変わった。

本性を表す前のような優しい笑顔を浮かべながら、ボクたちにパンを差し出した。


「焼き立てよ。いっぱい食べてね。」

「えっと…何の演技?」


ボクがそう聞いても、笑顔を崩さないまま何も答えてくれなかった。



「天使様が食べに来てくださるなんて、今まで頑張って来た甲斐があったよ。」


男性は嬉しそうに笑った。


「今ちょうど新しいパンを焼いているところなんだ。焼け具合を見てくるよ。」


そう言って、男性は裏の調理場へ行った。

女性は男性に笑顔で手を振っていたけど、姿が見えなくなった途端に無表情になった。


「うわっ…」

「何よ。」


敵対している時の声色に戻ってしまった。
やっぱり、さっきの優しい笑顔と声は演技だったんだ…


「あの人も人攫いなのか?」

「それは違うわ。あの人は…」


女性は近くに設置していた椅子に腰をかけると、調理場の方を向いて微笑んだ。


「呆れるくらい純粋でお人好しの、ただのパン職人よ。」

「もしかして、旦那さん?」


ボクがそう聞くと、女性はまた無表情になってしまい、ボクを睨んだ。



「だったら悪い?」

「い、いや…ステキな旦那さんだね。」

「ホント、どうして私なんかをもらってくれたのかしら…」


恐らく、女性は旦那さんの前では愛想が良く優しいのだろう。

女性は旦那さんを陥れるために演技をしているのかもしれない。
そう考えられることもなくはないけど、旦那さんの話をしている彼女の表情は、自然と和らいでいた。

十中八九で女性は旦那さんのことを好いている。
まともな感情をしっかり持っている。


「あなたはまともな人間だ。だからもう一度聞くよ。」


また断られるかもしれない。怒鳴られるかもしれない。
だけど、聞くしかない。


「あなたは過去に…フィヨルドと何があったんだ?」


女性は嫌そうな顔をしたけど、怒鳴ることはなかった。
ため息を吐いて、横目で調理場を見た。



「早くそのパン食べなさい。外に出るわよ。」

「教えてくれるんだね!」


渋々頷いた。

そうとなれば、はやくパンをいただかないと。
そう思ってパンが置いてあるテーブルの方へ向き直すと、ボクのパンはなくなっていた。

ふと、隣のブラピの方を見た。

リスのように頬が膨らんだ状態で、両手にもつボクのパンを頬張っていた。

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•:*+.ユミ.+*:• - 夢主の、本名がわかった途端、鳥肌が立ちました‼️これから、どうやって物語が進んでいくのか、楽しみです😆😍 (2021年12月5日 23時) (レス) @page35 id: d5a0a5071d (このIDを非表示/違反報告)
きういち(プロフ) - みかんの缶詰さん» 回収できていないものもあるのですが、頑張って回収して行きたいと思います!ありがとうございます! (2021年8月12日 7時) (レス) id: 3cf9b90fb6 (このIDを非表示/違反報告)
きういち(プロフ) - うさ丸032さん» ありがとうございます!私自身もハラハラドキドキ展開が好きでつい詰め込みすぎてしまいますが…これからもどうぞよろしくお願い致します!! (2021年8月12日 7時) (レス) id: 3cf9b90fb6 (このIDを非表示/違反報告)
みかんの缶詰 - きういちさんの小説は伏線回収が素晴らしすぎて、何度読み返しても全然飽きません!これからも楽しく読ませていただきます!そして、応援しています! (2021年8月11日 20時) (レス) id: a9da165b13 (このIDを非表示/違反報告)
うさ丸032(プロフ) - きういちさんの小説をずっと見ている者です!今回もとっても面白いかつドキドキする展開がまた僕にとっては面白さが湧き立ちます!きういちさん、ずっと応援しています!!頑張ってください!!! (2021年8月7日 14時) (レス) id: 8172536591 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:きういち | 作成日時:2021年8月3日 13時

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