同居人はユーレイです。【青】

ghost.16 ページ16

「……あのさ、」

「んー？どうしたの？」

「死ぬ前に、なんかあったの？」



るぅとくんが帰って二人きりになり、僕は思いきって気になっていたことを訊いてみることにした。

本人的には多分、あんまり触れられたくない話題なんだろうけど…。



「"なんか"って…。
　まぁ、事故に遭ったけど…」

「いやそうじゃなくて！
　生きてた時になんか嫌なことあったのかってこと！」



僕がそう言うと、Aは「うーん」と唸りだした。

そして「まぁ、あるにはあるよね」と言った。



「え、意外とあっさり肯定するんだね…」

「やー、まぁ流石に嫌なことくらいあるよ。
　ころんくんだって生きてて嫌なことあるでしょ？」

「そりゃあるけど…」

「うん。誰しもそういう感情はあるよ」



そうなんだけど！そうなんだけど…！！

いまいち話が噛み合ってない…。

誰も「今まで生きてきて嫌だったことってありましたか？」なんて分かりきった質問はしてない。



「……ころんくんもしかして、
　私の大学時代の話訊こうとしてる？」

「え？……なんだ分かってんじゃん」

「なんとなくそんな気はしてたよ」



気付いてわざとはぐらかしてたのかこの同居人は…。

やっぱりよほど自分の過去について触れられたくないんだろうか。

だから自分の過去を知る るぅとくんにも終始困ったような笑顔を向けてたのか…。


僕が考え込んでいると、突然Aが「……いいよ」と言った。



「え？」

「少しなら、話してあげる」

「え！？ほ、ほんと！？」

「うん」



まさかの展開。

でもAが良いって言うなら、話せる範囲で話して貰おう。

もちろん、無理には訊かないけど。



「私ね、ピアニストになりたかったの。
　だから音大入って、毎日頑張ってた。
　そしたらある日突然事故に遭って、
　……で、今に至るということです」

「……は？」

「ん？」

「いや、それは訊かなくても分かるけど…」

「あれ？ピアニストになりたかった話したっけ？」

「それは初耳だった。
　でももうちょっとなんかこう…
　深い話が聞きたかったというか……」



音大の生徒だったのはさっきるぅとくんから聞いたし、事故に遭ったのは初めて会った日に聞いた。

聞いたことある話しかされてない……。



「……いつか、話せる時が来たらちゃんと話すから」



「だから待ってて」。

そう言って微笑むAを見て、僕はそれ以上何も言えなくなった。
　

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