【ONEPIECE】悪運も実力のうち。 (ページ13)

今日:2 hit、昨日:3 hit、合計:17,421 hit

013 - 隠密ページ13

.

そんなもの、回避するに限る。

『あとはひとりで大丈夫です』

「しかし」と男は否定の声を上げたが、その先は言い淀んだ。いらない乱闘騒ぎを起こすことは彼自身も危惧しているらしい。

こちらにその気がなくとも、喧嘩をふっかけてくる輩がいないとは言いきれない。もはや期待のルーキーである以上は避けては通れないだろう。誘いに乗れば私は"守らなければいけない存在"として男の弱みになるし、断ろうものなら「度胸がない」だとか「蛮勇が足りない」なんて後ろ指を指され、ここにいる多くの海賊に生き恥を晒すことになる。
一度助けた女が直後死ぬようなことがあれば、たしかに寝覚めも悪かろう。

それでも。

『なんとかしてみせます。これでも私、普通ではありませんので』

親指を立てておいて、首を傾げた。
常人よりは動けるということを伝えたかったのだが、これでは頭がおかしいやつであることを自白したみたいではないか。自分では否定も肯定もできないので、男と同じ表情にもなってしまう。
だがこちらとしても、私のせいで恩人をそんな風に呼ばれることがあっては死んでも死にきれない。それは相手が海賊であったとしても、だ。

『本当にありがとうございました』と言い切るが早く、私は背を向けて走り出した。右の膝は変わらず痛むが、だいぶマシにはなっていた。

薄雲が月を覆い、夜の闇は先刻よりいっそうと深くなり。風は止んで、澱んだ蒸し暑い空気に砂が舞っている。
取り止めのない喧騒の束が、針となって頭を刺激する。

この場において、私は擬態する生物である。
極限まで息を殺し、物陰に気配を隠す。音を消し、匂いまで消して、漂流物に合わせて色と形を変える。もとより大柄な体格ではないが、隠密のためにもう少しばかり小さくなりたいと思った。それはそれで後になって後悔しそうだが。

座礁した漁業ボートの裏で外界を遮蔽し、やっとの思いで細く息をつく。
そして、ふと目の端に映った鉄の塊を、指先の力だけで手繰り寄せた。
周囲の熱気と比べると、本来それが持っている温度よりも随分と冷めきっているように感じた。弾倉に込められていた銃弾は、たった1発でも十分に死の気配を暗示しており、見た目以上の重量感を手のひら全体に与えてくる。

それは、銃把に施された意匠を確認しようとして起こった。
ちゃりん。フレーム部分に取り付けられたセーフティがひとりでに煌めき。

.