ラナンキュラス ▼吉沢亮 (ページ24)

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30センチページ24

髪を切った。
30センチ。

かといって、落ち着かないとかそんなことは無く、頭が軽くて楽だなあ、くらい。

切った本人よりも髪に未練タラタラなのが、亮だった。今も短くなった私の襟足をずっと指先で撫でている。

「綺麗な髪だったんだよ」

千葉「知ってますけど」

山﨑「俺も知ってる」

『私がいちばん知ってるよ、綺麗にしてたんだから』

「Aの髪……」

まるでお通夜だな、と思いながら、コーヒーをひとくち。

夜も続く撮影に、小さなトラブルで、ただ待つしかできない私たちは、静かなハイを迎えていた。

『長い方が好き？』

「うん」

『じゃあ今の私のことは好きじゃないのね』

「そんなこと言うんだ」

『違うの？』

「分かってるくせに」

私が笑うと、双方折れない攻防戦は一旦終わり。

ああ言えばこう言う。
亮の子どもみたいに聞き分けがいいのは、酔っている時だけなのだ。根がサディスティックであることを、こうしてたまに目の当たりにする。

千葉「あーあ、これで付き合ってないんだよこのふたり」

山﨑「シラフでもこんななんだね」

千葉「びっくりしちゃうよね」

『そこ、聞こえてまっせ』

髪の30センチより、亮との30センチが切なく感じてしまうのは、ハードな仕事の疲れのせいにした。

スタッフ「申し訳ありません、大変お待たせいたしました！シーン15撮って、本日終了となります！」

押しに押した今日の撮影が、ようやく終わった。

「A、帰るよ」

家がほぼ一緒の亮とは、現場が被ると、移動車を共にすることがある。

「着いたら起こす」

『ごめんね、ありがと……』

有無を言わさず、亮の肩に頭を促され、お礼もそこそこに、深く、落ちた。

＊

吉沢side

マネージャー「針谷さん、ショートも似合うね」

「似合うね～……」

マネージャー「吉沢さんってそんなにロング好きだったっけ？」

「ん～べつに、どちらかと言えばって感じ」

ただ、俺が知ってるAじゃなくなった気がして、気持ちが追いついてないだけだった。

つくづく、執着心はAに向いていた。

眠るAの横顔が、いつもよりよく見えることに気付いて、ショートもいいものだな、なんて。