王子はいかが？ (ページ45)

今日:10 hit、昨日:0 hit、合計:57,931 hit

45 ページ45

優を見ると右手がデコピンをする体制に入っていた。

｢あー！ごめんなさいごめんなさい｣

その間にも手はこちらに伸びてくる
覚悟を決めて目をぎゅっと閉じるも衝撃は意外な所に来た。
少し乱雑だが優の家へと向かう時と同様に私の体を一定のリズムで叩き始めたのだ。

｢デコピンされるかと思った…｣
｢してもいいなら、するけど？｣
｢やめて下さい…｣
｢一樹が来るまで俺で我慢してろ｣

そう言うと空いた手で私の手を優しく包んだ。
一樹も温かいけれど優も温かい
いや、一樹の周りの人全てが温かい。
つい最近まで冷えきった人生を送ってきた私とは真逆だ。

｢あったかい｣

思わず口から気持ちがこぼれ落ちた。
優がちらりとこちらを向いたのが視界に入る。

｢一樹と最初どこで会ったの？｣
｢駅前あたりかな…多分今年で1番の雨だったんじゃないかって時に一樹が見付けてくれたんです｣

あの日の事を思い出すと今とは全然違う強引な一樹を思い出して自然と微笑んでしまう。

｢もしかしたら俺と別れてすぐの時かも｣
｢そうだったんですか｣
｢もし…もし俺が先にAを見付けてたら｣
｢え？｣
｢なんでもない。ちょっとビール取ってくる｣

優は決してそれ以上は言わなかった。
そして冷蔵庫からビールを取り出した音はしたものの一向にこちらに戻る様子が無いことから、きっとリビングに居るのだろう。