王子はいかが？ (ページ20)

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ため息ばかり漏れてしまう。
これからどうしようかと思う間も何度も着信が入っていた。
だが私には出る勇気がなかった。
一樹と居たのは、たった数日なのに私とっては今までに無いほど幸せに満ちた日々だった。
それを自ら手放したのだから私の勝手でまた戻るなど許されないと思ったのだ。

｢一樹……｣

初めて一樹の名前を口にしたその時だった。

｢A！！良かった｣
｢え？｣
｢急にいなくなるからびっくりした…｣

一樹が息も絶え絶えに目の前に現れたのだ。
どうして一樹はこんなに沢山の人の中からいつも私を見付けられるのだろう。
そして、どうしていつも私を引き戻してくれるのだろう。

｢どうしてここに…｣
｢しらみつぶしに捜してた。電話も出ないから焦って…帰ろう？｣
｢…帰らない｣

帰りたい気持ちと化粧品を見付けた時のショックが交錯して自分の中でもどうしたらいいか分からなかった。
一緒に居たいのに一樹と居ると胸が苦しくなる。
逃げているといえばそうなのかも知れない。

｢だめ。おいで｣
｢いや！気を使わせてごめんね。彼女居るんだよね？私が居ると迷惑だから｣

手を振り払って、そう言い終わると一樹は呆気に取られた顔をしていた。
それじゃ、と言い捨てて立ち去ろうとすると、また手を掴まれる。