王子はいかが？ (ページ2)

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｢結構です。あなたが濡れるじゃないですか｣
｢こんな寒い中そんなずぶ濡れで歩いたら倒れちゃうよ？すごい震えてるし｣

確かに体は小刻みに震えていた。
真冬のこの季節にこれだけ濡れていれば当然の話だ。
だが冷めきっている私にはお似合いなのかもしれない。
人の善意ですら疑ってかかってしまうのだから

｢ほら、立って｣

男性に腕を掴まれて立ち上がるように促されるも人並み以上の警戒心を持ち合わせる私は手を振り払う。
大抵の人はここで最初の善意とは違う悪態を付きながら去っていく分かりきった流れだ。
しかし男性は立ち去ろうとはせず私の隣に腰を下ろしたのだ。

｢どうして行かないんですか？｣
｢放っておけないって言うか放っておいちゃダメな気がするからかな～｣

今まで経験した事がない展開に戸惑いを覚えた。
自分がどうしていいか分からない。
立ち上がると逃げるように立ち去ろうとしたが後ろから腕を掴まれ足が進まない。

｢離してください｣
｢だめだよ｣
｢警察に電話しますよ！｣

ぐっと引き寄せられて男性の腕の中に居た。
抜け出そうとしても、それ以上の力で抱かれる。
私達の横をすり抜ける人、怪訝そうな顔でこちらを見る人、様々な人の雑踏の中2人だけ時間が止まっているようだった。