アマミツツキ【天喰環】 (ページ10)

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漏れる声にAが振り向いた。相変わらずの寡黙さで、Aは天喰の左腕に目を向け無事を確認しているようだった。大した傷ではなさそうだが、あの銃弾の効力は本物だった。こんなところにまで出回っているなんて。
天喰がAを見る目が、ファットの敵対心を緩めた。
「サンイーター、この子と知り合いか？」
「知り合いも何も、同級生だ。といっても、二学期から雄英に転入してきた転校生…」
無力化したサンイーターの前で、Aはさながらヒーローのように右手を真横に、切島の元へ向かうように促す。
「もういい、わかったら早く行って。ここは私に任せて」
事は一刻を争う。
背中を押されたファットは「おおきにな！」と切島の無事を祈り、追いかけていく。

警察と協力し、犯人グループに手錠をかけていく。
大阪の道頓堀の奥、一時騒然としていた商店街には複数のパトカーが止まり、事態は収束に向かっていた。
「おかげさまで助かりました！コイツらは、裏アイテムの売人チームで、我々も機会を伺っていたんです」
犯人グループのリーダーと思わしき人物は警察の方々に囲まれていた。
「俺の個性が発動できないのは、その商品の一つか」
確信を得るためにも、天喰は左腕をさすりながら、その裏で取引されていたモノによる効き目であるのかと睨む。
「死ね、ボケカス」
悪足掻きの威圧的言葉に呆気なく傷ついたサンイーターは、また背中を見せた。
警察の方がサンイーターの予想外の反応にどぎまぎしながらも、上手な慰めの一つや二つも分からないまま、当たり障りなく言葉を掛けるとパトカーに乗せて連行していった。

隅っこで切島の安否を憂う傷心した天喰に、Aは犯人リーダーの代わりに答える。根拠もある。
「天喰君の聞いた事は間違いないと思う。あの銃弾、普通じゃなかったから」
天喰は頷く。
「思ったより痛くなかったし、弾丸を発射した分の衝撃はあるけど、針にでも刺されたような感覚だった」
左腕を抑える。
「痛む？」
「大丈夫…。個性が使えなくなって、正直あの時動揺した。…情けない。君にも迷惑をかけた」
天喰が腕を抑えたのは、身体的苦痛ではなく、自分の不甲斐なさから来るものだった。気持ちの面での課題がなかなか克服できない自分に嫌気がさす。いつかこの要らない感情が、なくなればいいのにと思う。
「自分に厳しいね、天喰君は」
人の気持ちに敏感で、先回りして考えられる優しい人。
きっと彼は、他人を責めたことはないのだろう。