アマミツツキ【天喰環】 (ページ9)

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ビルの屋上から商店街を見下ろす。
パトカーとヒーローたちを中心に囲むように広がった群衆の中から、一人、銃を構えた男がいる。この位置から見ても、周囲とは異なるモーションに嫌でも目がいく。手先が震えて、銃口が定まっていない。しかし、何の運が回ってきたのかわからないが、その銃弾はサンイーターの左腕を負傷させた。
「アニキ…！逃げろ…！」
振り絞った声と引き金は同時だった。二発目の銃弾は、切島の硬化に弾かれ通用しなかった。
「捕らえます！！」
人々は銃声の焦点から散り散りになっていく。恐怖に悲鳴が上がり、混沌する。
男は怯んで逃げ出し、すかさず切島は捕獲に向かい単身駆け出した。
「タコで捕らえる…！」
逃げ出した男に指を向けるが、個性が発動しない。
呆然と立ち尽くしている間に、ファットの制止も虚しく切島の背中は小さくなっていく。
「サンイーター！無事ならここ任すぞ！すぐに他のヒーローも来る、協力しろ！」
「無事だけど…！個性が発動しない…！」
人類のほとんどが個性という能力を持つ超人社会。今まで当たり前に使えていた個性が突如として使えなくなった現実を突きつけられ、また、ヒーローを目指す者にとっての無個性は夢を砕かれたのと同義だ。
打ち拉がれた焦燥によって大きくなる声に、切島を追いかけ始めたファットの足が止まる。
「なっ…イレイザーでもおんのか！？」

一部始終をビルから傍観していたAが、サンイーターとファットの前に音もなく飛び降り立つ。
落下の衝撃を吸収するように身体を屈めて着地、立ち上がり顔を上げるとファットガムは身構えていた。
自分の警戒の甘さからサンイーターは左腕を打たれ、加えて今、何らかの影響によって個性が使えない。そこに現れた初見のAに、殺気立てているのは普通の反応である。
ファットガムは一つ、Aの個性で、サンイーターの個性を押さえ込まれているのだと仮説を立てる。本当にそうとは限らないが、援軍が到着していないこの状況下で、厄介な個性持ちであった。まずは敵か、それ以外かを判断しなくてはならない。分散したインターン中の学生たちのためにも、冷静に、事を運ばねばならない。
「誰や自分」
敵意を向けられているAはファットガムと対峙している。
顔が見えていなくとも、天喰は後ろ姿だけで分かった。
「どうして…君が、」