アマミツツキ【天喰環】 (ページ11)

今日:1 hit、昨日:2 hit、合計:3,876 hit

10 ページ11

Aが天喰を助けに来たこと、迷惑なんてかけていないと簡単に伝えたところで、自責と後悔の念が強い彼にとっては気休めにもならない。
「私だって…、君があの銃弾に撃たれるの、分かってた」
ぽつりと打ち明けた。
「ずっと見てた、撃たれるまで」
「…でも君は、助けに来てくれたじゃないか」
Aは首を横に振る。
「結果的には何もなかったし、助けてないのと一緒。それに…あの弾丸の効果が本当かどうか、確認したかった」
矛盾した言動が引っかかる。Aの言葉の裏で、後ろ暗い何かが見え隠れしているのは想像がつく。本人もきっと、本当のことを言っている。隠すつもりは毛頭ないが、これ以上話すつもりもないらしい。
天喰は、深掘りしないと決めた。
それよりも事実を伝えた。
「…弾丸の効果を確認した上で、俺が個性を発動できなくなった時、君はここに来てくれた」
自分が彼女を信じたいだけの暗示なのかもしれない。意図的に事の成り行きを見守った、ただの尻拭いだとしても、その事実とAが明かした真実が、天喰を救った。
「ありがとう」心強かったよ、と素直にお礼を述べる。
「…人には優しいね、天喰君は」
パトカーの赤色灯が点滅する中、落ち着きを取り戻しつつある街並み。
薄い雲が少しずつ流れ、丸い月が顔を出す頃、Aはまた居なくなっていた。

「先輩は、大丈夫なんスか…？」
「…辛い」
天喰は、フードの先端を持って目深く下げる。
「個性が出ねえなんて、ヒーローにひでぇ仕打ちだ…！」
先輩のそんな様子に切島は眉間にしわを寄せ、憤りを示す。
「それより、君は俺を庇ってくれた。ミリオと同じ、太陽のように輝かしい人間だ…君は」
「んなこと言ったら、ここ紹介してくれた先輩も、太陽っスよ」
「それだよ…凄いんだよ、君」
ミリオも切島も、口から出る言葉は全て人に勇気を与える。そんな自分へ向けられたポジティブな言葉と自分の気持ちに温度差があって、いたたまれなくなる。やっぱり、目を背けたくなるほどに眩しい。
「病院で検査してもらおか！俺も調べたいことあるしな。とりあえず一旦、事務所経由で行こか？」
「…はい」
「押忍！」
警察と、銃弾についての話が一区切りついたところで、ファットガムがこれからの流れを指示する。
元々警察と協力して、違法的武器や品物の取引など、そう言うものを専門に活動してきたファットガムは、今回の案件に不穏な空気を感じていた。
見上げた空に悠然と昇る月が、やけに不気味に見えた。