青天の霹靂【日々樹渉】 (ページ3)

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桜花の候ページ3

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桜花の候、日々樹渉と桜を見た。

彼は私の真っ青な髪の毛にひらりと風に吹かれて散ってしまった花弁を宙で手のひらに包み私の頭に乗せて笑った。道化師みたいな笑顔じゃなかった。それがとても嬉しくて、見とれてしまった。

綺麗ですね、と彼は台詞のように大声で喜劇的に話すから私は声を出して笑ってしまう。彼の隣を歩くと、彼の影に私はすっぽりと収まってしまうからコンクリートを眺めるだけで幸せな気持ちになる。

日々樹渉は私の人生に彩を与えた。友達もそこそこいたし、勉強もそこそこした。たまたま小説が認められただけで、私は普遍的な毎日を過ごしているだけの女子高生。勝手に彩をエゴという消しゴムで自分で消して無気力になった自意識過剰な自分の人生を、改めようと思わせてくれた日々樹渉は私の中で ''脚本を書けという美少年'' から ''日々樹渉というアイドルの卵'' に変わり ''素敵な人'' になった。

私を彩る彼が素敵だった、否彼が創りあげるものに惹かれたのだろう。何にも感じなかった校舎の中庭に植えられたポピー。彼はそれを指して、紫之創くんという後輩が毎日水をやり育ててると教えてくれた。ただのポピーがとある少年が毎日水をやり丁寧に育てたポピーに変わる。

饒舌な彼が面白かった。桜の舞う中で見た彼は別次元からやって来た綺麗な青年だった。長い髪を高い位置で一つに結い、ポニーテールがとても似合う。私よりもずっと長い髪、手を伸ばしたくても伸ばせなかった。日々樹渉は私の髪の毛をよく触る。身体に触れた訳でもないのに、何故か擽ったいのはやはり慣れない感覚だ。

アダムとイブが禁断の果実を食べたら罪になったように、日々樹渉に触れることは罪な気がしてならなかった。凛として咲いたような綺麗な彼は、それほど私にとっては眩しい。彼が私を連れ回す理由は、何なのか分からない。この後脚本を書けと言うのかもしれない、そうしたら嫌だと舌を出そう。

転向するのだから、会うのはきっと今日で最後だ。日々樹渉との数日は、私の人生の転機として私の忘れられない記憶のひとつになるだろう。この桜並木も、きっと忘れられない。

少しでもいいことがあれば、小説のネタにしようと頭やメモ帳に記録しようと励むが、今日のことは誰にも言いたくない自分だけ知っていたい幸福であった。日々樹渉は口数が多くて、私に向かって色々話したけれど私は何故か内容を今となっては思い出せないのだ。

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