検索窓
今日:8 hit、昨日:0 hit、合計:93,427 hit

4 ページ46

それは亮が上京する前日のこと。

亮から呼び出された大倉は、近くの海に来ていた。


「話って何?」

「・・・頼み事がある。」


そこで亮が取り出したのは。

紙切れ一枚。だけど大きな意味を持つそれ。

大倉は息を呑んだ。


「・・・いつ、書いたん。」

「丁度一年前ぐらい。」

「本気なん?」

「もちろん。」


短い会話。

もちろんと頷いた亮の瞳は揺るがなかった。


「それで、頼みっていうのは、

 ここ、書いて欲しいねん。」


指し示されたのは、二人の名前が書かれた隣。

“証人”の欄。

大倉の口から乾いた笑いが漏れた。


「・・・亮ちゃんって、案外残酷なんや。」

「・・・。」

「知っとるやろ?俺の気持ち。

 何なん?予防線張ろうとしてんの?

 言うとくけど、俺そこまでええやつちゃうから。」


大倉がそう言ったのも仕方ないと思う。

確かに大倉の想いは“好き”とは少し違うけど、

でもそれでも、それを書かせるという行為は、あまりに酷だ。

言うなれば大倉の想いへの死亡診断書のような。



「知ってる。お前がそんなにええやつじゃないことぐらい。」

「・・・じゃあ、何で。」


亮は、海の方に目を向けた。


「勘違いしてるみたいやけど、俺もお前が思うほど、ええやつやないで?

 ましてや、スーパーマンでも聖人君主でもない。

 ただの人間や。だから保証が欲しい。」


なんとも強引で、自分勝手で、真っ当な理由。

ある意味、二人は似ていたのかもしれない。

手に入れたものを手放したくないという点において。


ただ、


「そん時の亮ちゃんなぁ、要求しとることが想像できんくらい、

 ホンマに綺麗な顔しとった。」


僕に対して、大倉は苦笑しながらそう言って。


僕は思う。

そこが似ている二人の大きな違い。

亮と大倉の決定的な差。

どちらが良いとか悪いとか、そういうのは無いけど。

でもきっとこの差が、Aちゃんが大倉じゃなくて亮を選んだ理由につながったんだと思う。





自分のことを“ただの人間”と形容した亮は、こう続ける。


「俺さ、絶対Aを幸せにしたい。」


大倉は溜息を吐いた。


「・・・一緒やん。」

「・・・?」

「“幸せ”って。亮ちゃんもAも。」

・・・そんなに大切?

大倉が聞くと、亮は少し考えて。そして真っ直ぐ大倉を見つめた。


「・・・好きやから。」


「・・・え。」

「Aが好きやから。だから幸せにしたいし、“一緒に”幸せになりたい。」


なんて亮らしい理由。

5→←3



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.8/10 (185 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
298人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

なるせ*(プロフ) - 笹塚カナメさん» コメントありがとうございます!!共感していただけるのが作者としては一番嬉しいものです。感想ありがとうござました(*´▽`*) (2018年5月16日 4時) (レス) id: 7b25f3aafe (このIDを非表示/違反報告)
笹塚カナメ(プロフ) - 主人公の考え方、作者さんの表現力に感動いたしました。あっという間に読み終わってしまいました。これからも応援しております! (2018年5月16日 2時) (レス) id: 180a39eeb3 (このIDを非表示/違反報告)
なるせ*(プロフ) - うさたぬき。さん» コメントありがとうございます( ´∀`)ここから佳境ですので続きもぜひぜひご覧下さい(*´∀`*)ノ (2018年4月11日 22時) (レス) id: 91b64b0a9a (このIDを非表示/違反報告)
うさたぬき。 - 続きが気になります!更新頑張って下さい^^ (2018年4月11日 16時) (レス) id: e14d5f519c (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:なるせ* | 作成日時:2018年4月2日 19時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。