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私に気付かないで通り過ぎる二人。
大倉は女に微笑みかける。
その笑顔は、私が見たこともない、
そして私に見せたことの無い、
甘くて、優しくて、キラキラしていて、カッコよくて、
＿＿＿＿＿上辺だけの笑顔だった。
だけどそれがきっと、大倉のホンモノの顔。
私達に見せていた顔は、確かに大倉の“素”なのかもしれない。
だけど彼が“表の顔”だと、“本物”だとしているのは、
今彼が浮かべている笑顔で。
私が見ていたのは、所詮ニセモノに過ぎなかった。
ただ、それだけだった。
ケーキ片手に立ち尽くす私は、ひどく惨めだった。
.
今でもどうしてか分からない。
震える指先で、彼の電話番号を押した理由が。
何かが変わるわけじゃないのに。
思考もまとまっていないのに。
それに。
こんな無防備な状態で電話をしたら、
マトリョーシカの中身をあっけなく見破られてしまうかもしれないのに。
・・・甘え、なのか。
結局私は、ただの普通の女だった。
強くなろうとしてなれなかった、
ただの、どこにでもいるようなか弱い女だった。
コール3回。
彼は、電話に出た。
「もしもし。」
「・・・に、しき、ど くん。」
自分で電話を掛けたくせに、錦戸くんの声が聞こえたことに戸惑った。
何を話せばいいか分からなくて、次の言葉が出てこずに、しばしの沈黙。
ごめん。そう言って電話を切ろうと思った。
だけど。
「・・・今どこ。」
先に言葉を発したのは錦戸くん。
尋ねられたのは、
どうした？とか、なんかあった？とか、心配の言葉ではなく、
私が今いる場所。
さっき寄ったコンビニの名前を言うと、
「すぐ行く。」
そう言われて、電話を切られた。
ただ、
♪ﾌﾟｰﾌﾟｰﾌﾟｰ
通話が切れたその音が、耳に残った。
.
どのぐらい経ったのか、真冬の冷たい風が吹き抜けて。
「A!！」
いつから私の下の名前を呼ぶようになったのだろう。
そんなどうでもいいことを思った。
.
近付いてきた錦戸くんが差し出したのは、バイクのヘルメット。
「時間ある？」
「ある、けど。」
「じゃあ乗って。」
言われるがまま後ろに乗って、彼の腰に腕を回す。
その体温が、その温かさが、
何となくあの夜の大倉を思い出させて。
ふと、泣きそうになった。
「・・・誰も見てへんから。」
・・・あぁもう何で。
零れた涙、漏れた声ごと全部、錦戸くんの背中に押し付けた。
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なるせ*(プロフ) - 笹塚カナメさん» コメントありがとうございます!!共感していただけるのが作者としては一番嬉しいものです。感想ありがとうござました(*´▽｀*) (2018年5月16日 4時) (
レス) id: 7b25f3aafe (このIDを非表示/違反報告)
笹塚カナメ(プロフ) - 主人公の考え方、作者さんの表現力に感動いたしました。あっという間に読み終わってしまいました。これからも応援しております！ (2018年5月16日 2時) (レス) id: 180a39eeb3 (このIDを非表示/違反報告)
なるせ*(プロフ) - うさたぬき。さん» コメントありがとうございます（ ´∀｀）ここから佳境ですので続きもぜひぜひご覧下さい(*´∀`*)ノ (2018年4月11日 22時) (レス) id: 91b64b0a9a (このIDを非表示/違反報告)
うさたぬき。 - 続きが気になります！更新頑張って下さい＾＾ (2018年4月11日 16時) (レス) id: e14d5f519c (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：なるせ* | 作成日時：2018年4月2日 19時
