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 杉谷は気分が高揚していた。生まれた時からの幼馴染みと久方ぶりに対面を果たせたからだ。しかも彼は自身が青春を共にした尊敬する先輩と同じチームで、仲良の良い姿を見るとすごく安心した。
 かつて、自分の後ろを追いかけて来た幼馴染みは、それは素晴らしい美丈夫に成長しており、なんだか杉谷も誇らしかった。アメリカの大学でも活躍しているようだと親伝いで知ってはいたが、つい最近日本のプロ野球で華々しくデビューした姿をテレビで観た時は誰かに自慢したかった。
 しかし、自分のチームメイトが杉谷の言葉を信じるわけもないと思い、今日(こんにち)まで誰にも知らせず黙っていたのだ。

 先程から後方からの視線がチクチクと自分の背中に突き刺さるのを杉谷は感じていた。身体を捻るフリをしてチラリと見ると、同じチームの後輩やら先輩やらがこちらを面白そうに見ていた。後輩の一人はものすごい目つきで見てきていた為、慌てて杉谷は身体を捻るのをやめた。

 そんな杉谷の様子にヴィルは眉を悲しそうに下げた。



「拳士さん」



 ギクリ、と杉谷の肩が跳ねるのをヴィルキンスは見逃さなかった。

 「は、遥輝。どうしたの?」

 杉谷が慌てて振り返ると後輩がこちらを見下ろしていた。杉谷もまさか日ハムの後輩である西川遥輝がこの状況で話しかけてくるとは思わなかったのだ。西川の後ろ側にあるベンチからは同期の中島や先輩である中田、宮西が此方を伺っていた。

 「拳士さん、いつまで話しとるんすか。相手方さんに迷惑になるやろし戻りますよ」

 「え、でも」

 「ほら、行きますよ」

 西川が杉谷の腕を持ち立ち上がるように催促する。想像もしてなかった西川の行動に杉谷も戸惑う。

 「西川、俺らは大丈夫だよ。久しぶりの再会で話したいこともあるし」

 「いえ、そんな迷惑かけるだけなんで」

 中村がフォローするが、西川はにっこりと愛想笑いを返すのだった。有無を言わさないその態度に流石の中村も眉をあげる。

 なんでこうも自分の後輩は俺を邪魔扱いするんだろう、ベンチに居たって皆して邪魔扱いするくせになんでこうも……俺が何かしたのかな、と杉谷の瞳に涙が滲んだ。

 抵抗する気力もないのか、促されるように杉谷は立ち上がり其の場を離れようとした。其時、反対の手を西川より強い力で引かれ、そのまま其の相手の腕に身体が包まれた。

 嗅ぎ慣れた懐かしい匂いに杉谷は人知れず安心した。



 『ケンちゃん』

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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時

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