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そして、ついにこの日が来たのだった。地方球場で行われた、福岡ソフトバンクホークスVS北海道日本ハムファイターズ。
グラウンドにて最終調整をしてる時だった、少し離れたところから中村を呼ぶ声。
「晃さーん!」
見なくとも分かる。高校時代からよく聞いた声だった。高校時代苦楽を共にした、日ハムの杉谷拳士だ。
「拳士」
中村が近づくと杉谷は嬉しそうに頭を下げた。二人で他愛もない話を繰り広げていると、そう言えばと杉谷が中村の後ろ、正しくはホークスのベンチを見た。中村も後ろを振り向くと丁度、ヴィルキンスがベンチから出てきたところだった。
「ヴィル!!」
中村が呼ぶとヴィルキンスが中村達の方を振り向き、笑顔で中村に手を振ってくる。しかし、中村の後ろに立つ人物を認識するとやや目を見開いた。そして、中村達の方へ走ってきたのだった。
『ケンちゃん!!』
珍しいヴィルキンスの大きな声に両ベンチは何事かと覗き込んでくる。そんな視線も物ともせず、ヴィルキンスは意中の相手をその腕に抱き込んだのだった。
『ケンちゃん! あぁ、もう、会いたかった』
ヴィルキンスは彼の旋毛に鼻を押し当て深く息を吸い込んだ。抱き込まれた杉谷は慣れているのか、ポンポンとヴィルキンスの背中を宥めるように叩くのだった。
そう、ヴィルキンスの幼馴染みとは日ハムの杉谷拳士であった。
立ち話もなんだし、と三人はストレッチしながら会話に花を咲かせる。杉谷はヴィルキンスに日本のチームはどうだとか、困ってることはないか、中村に迷惑をかけてないか、その姿はヴィルキンスの兄のようだった。高校時代もこうやって杉谷の話をニコニコしながら嬉しそうに聞いていたな、と中村は思い出していた。
『とっても楽しいし、チームのみんなも良い人達ばかりよ。迷惑かけることも多いけど自分なりに頑張ってるつもり』
「ヴィルは本当に良い子だから拳士の心配するようなことはないよ、安心しろって」
二人の言葉を聞きながら杉谷は嬉しそうに笑った。そんなかつての後輩の姿に中村も安堵の色を見せた。そんなに心配するようなことも無かったのか、と。
しかし中村は先ほどから相手のチームからの視線が気になって仕方なかった。チラリと横を盗み見ると、杉谷の後輩の男がものすごい目つきでヴィルキンスを睨みつけていたのが目に入った。
前言撤回、これは心配する何かがある、と心の中で十字を切った。
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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時