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 『なによ、コレ』

 春季キャンプも無事に終えプロ野球は開幕した。ソフトバンクはオリックス相手に一勝二敗と負け越しており、明日はいよいよヴィルキンスがスタートメンバーに入るとのことで、チームは益々やる気に満ちていた。もちろん、メディアやファンも期待に胸を高鳴らせている。
 明日の第四戦を控え午前のみ全体練習が行われていたがほとんどのメンバーが午後まで自主練をしており、其の中にはヴィルキンスもいた。
 休憩中になにやら携帯でいそいそと動画を見ていたヴィルキンスが声を低くして呟いた。さっきまでニコニコと花の綻ぶ笑顔を見せていたのに、急にその表情は消え眉間に皺まで露わにしていたのだ。

 「どうしたー?」

 丁度前を通りかかった松田がただならぬヴィルキンスの様子に声をかける。隣で休憩していた中村もヴィルキンスの見ていた携帯に何やら問題が起きた事に気づき、ひょいと画面を覗き込んだ。

 「……あー」

 なるほどね、と中村が呟く。どうやら中村は察しがついたのだ。目の前の松田も同じように気づいたらしく苦笑いをしていた。
 ヴィルキンスが観ていた物とは、某動画サイトに載せられた幼馴染みの動画のようだった。試合中の物からバラエティに出ている物まで。最初は楽しそうに観ていたが、だんだんそれは一部ファンが撮影した幼馴染みのチームでの扱いになっていった。
 きっと、向こうのチームでは彼の幼馴染みはそういう扱いなのだろう。所謂、いじられキャラ。聞こえは良いが、他所のチームからしたらそんな扱いされてよく耐えられるなっといった物も目立つ。
中村も当初は後輩の立ち位置を案じていたが、後輩本人が笑って済ませていたためそれ以来何も言わずにいたのだ。

 しかし、このヴィルキンスAという自分達の新しい後輩が、幼馴染みをいかに大事にしているかを中村達は知っていた。
 ヴィルキンスは携帯をオフにすると立ち上がった。

 「……ヴィル?」

 バットを持ちバッティング練習を行うようだ。名前を呼ばれ振り返ったヴィルキンスの表情を二度と忘れない、怒らせたらダメな人物の一人、と後に二人は語った。



 「物理的にはダメだけど、精神的に()っても文句は言われないですよね」



 翌日、ヴィルキンスは華々しくデビューを飾り一面記事として日本中を賑わしたのだった。



 そして、波乱の試合はあっという間に訪れる事となった。

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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時

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