検索窓
今日:15 hit、昨日:3 hit、合計:24,223 hit

ページ ページ7

.


 『鶴岡さん、アタシね。さっきのリポーターさんみたいな人間(ヒト)、苦手なんです』

 鶴岡はさっきヴィルキンスが絡まれていた光景を思い出す。パ・リーグ内では少し有名な女性リポーター、ベテランには分かるであろうが今年もまた入ってきたばかりの新人選手は数名被害にあったと風の噂で聞いた。選手喰いとまでは言わないが、プロ野球選手好きと言われても否定はできないな、と鶴岡は思った。

 カキーン、と小気味いい音が鳴る。白球は弧を描いてスタンドに吸い込まれていくのが見えた。

 『同じような質問も媚を売るような視線もまだ堪えられる』

 座ってキャッチャーミットを構える鶴岡からはヴィルキンスの表情は見えなくなっていた。ただ、ギュっと握り込まれたバットは益々その打撃の威力を上げているように思えた。



 『だけど、グラウンドを汚されるのだけは耐えられないんですよ』



 打ち上がった白球はそのまま電光掲示板に当たったのが見て取れる。練習していた他のメンバーもヴィルキンスを見つめていた。

 鶴岡は立ち上がるとヴィルキンスの手からバットを離す。強く握り締められた指を一つ一つ丁寧に外していく。

 きっと彼にとっては初めての環境、人も場所も慣れない中でこれまで通り野球をするというのは物凄くストレスとなる。移籍した鶴岡にはそのストレスが多少なりとも分かった。
それに加えてヴィルキンスのように野球に真髄な奴はきっと、あの女性リポーターの様な人間とは相容れないのだろう。
 開いた胸元、ヒールの靴、強く香る香水――あまりにも不釣り合いで思わず苦笑してしまった。納得いかないような視線とぶつかる。此のあまりにも美しい後輩を今日は大層可愛がるのも悪くない。



 「ヴィルはそのままで良いんだよ。そのままの気持ちで野球を好きで、好きなように野球をしてくれたら良いだ」



 さぁ昼飯でも食べに行こう、とヴィルキンスの肩をポンと叩き鶴岡は笑った。途中、後ろから走ってくる柳田が見えた。中村はやれやれといった仕草であるが、彼奴もヴィルキンスを心配していたことを鶴岡は知っていた為益々笑ってしまった。

 鶴岡はふとある事が頭を過った。幼馴染みとは野球に関する真髄さも似るのか、と。

 此処から遠くに置いてきてしまった喧しくも憎めない、むしろ愛されキャラであろう可愛い後輩を思い出すのであった。

4→←3



目次へ作品を作る
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (54 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
117人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。