御伽噺のその後 ページ40
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御伽噺のその後知りたくない?
アタシはその後、数年間は選手としてキャリアを積んで日本代表選出、3度の盗塁王とGG賞までもらうことができた。その後は、悠岐さんをサポートするために家庭に入ることにしたんだけど。
戸籍も変えて、今では――柳田・∨・A。それが今のアタシ。
御伽噺のその後
「……ままぁ」
周東佑京が其の子供を見つけたのは本当に偶然だった。球場入りして着替えを済ませグラウンドに向かおうとした途中。か細く震えた其の声を周東の耳は捉えた。見渡した先に見つけた声の主は、物陰に其の小さな身体を一生懸命押し込めて震えていた。まだ小さな女の子だった。
――迷子だよな、誰のお子さんだろう。
周東はなるべく其の子供を怖がらせないように細心の注意を払いながら身を屈めた。
「ねぇ、大丈夫?」
「ひっ!」
周東の呼びかけに子供は大きく体を揺らし、縮込めていた身体から顔を上げた。大きな瞳にたっぷりと涙を浮かべ、いつ決壊して流れ出してもおかしくない状態のようだった。
「あぁ、ごめんね、びっくりしたよね。僕は佑京、君は? 迷子かな」
「みゆう……ままとぱぱがいないのぉ」
膝を擦りむいたのか赤くなった膝小僧を抱えて、女の子は不安そうに周東を見つめる。
「あぁ、膝を怪我しちゃったのかな? 偉いね、泣かなかったんだね」
「うん! みゆう、がまんしたの……でも、ままとぱぱがいないくて、こわくて」
ぽろりと、ついに零れた涙を女の子は必死に袖口で拭う。周東は手に持っていたタオルを女の子の目元にあてがい、優しくその小さな頭を撫でた。
「みゆうちゃんのママとパパ探しに行こうか。お兄さんと一緒に探しに行けるかな?」
「うん! ぱぱね、おにいちゃんとおなじふくきてるの」
――パパは選手かトレーナーかな。
周東は女の子を抱き上げると再びグラウンドに歩みを進めた。女の子からほのかに香る其の心地よい香りに既視感を覚えながら。
グラウンドに着くと、いつも以上に騒然としていた。誰も周東が到着したことに気がついておらず、周東はどうしたものかと困り果てた。
「パパ何処かな」
「……わかんない。ぱぱぁ、ままぁ」
女の子の声が再び悲しげに震え始めた、その時――。
『あ! 美優!!』
周東が密かに憧れてやまない声がグラウンドに大きく響いた。
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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時