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 微睡み天使





 引越し先はすぐに見つかった。というのも、ワタシの契約してたマンションのいくつか上の階がファミリータイプの賃貸でリノベーションをしたばかりというものだから、ワタシ達はすぐに二つ返事で契約した。

 先程、真新しいソファーや家具達が届いたはいいが、恋人は久しぶりに競馬へと出かけている。青天の今日は、きっと馬達も気持ちよく走れているだろうし――。なにより、悠岐さんはもっとハツラツとしてるんだろうなぁ。

 『ふふ……ふぁ』

 天気のいい今日は日当たりの良いこの部屋も相まって、お昼寝にはぴったりだ。



 早く帰ってこないかなぁ









 今日はどえらい天気もええし、競馬日和やった! Aも連れて来たらよかった。

 快く送り出してくれたAに感謝の気持ちも込めて、小さなブーケとAの好きなケーキ屋の新作を数種類買って帰る。

 「ただいまー! ……Aー?」

 いつも通り玄関で出迎えを待つが、待てども恋人は現れない。首を捻りながらリビングへ向かうと、そこには――。



 「て、天使っ!!!」



 天使、もとい、Aが真新しいソファーに横になっていた。

 あぁ! 家具届くの今日やったか! すまん!!
 音を立てないように、ススス、と眠るAに近寄りしゃがみ込んでその寝顔を覗き込む。

 「かわえぇ……まつ毛長いなぁ……かわえぇ、寝ててもかわえぇ」

 ――染められた金髪(ブロンド)と毛先のすみれ色(ヴァイオレット)。本物の天使がおったら、こんな感じやろうなぁ。

 すみれの砂糖菓子のような俺の恋人。溶けないように、崩れてしまわないようにと、そんなアホなことあるはずないがそっとその頬に指を滑らせる。
 柔っこいその頬、全身にかけて柔らかいAをいつも壊してしまわないように丁寧に、俺にしては存外大切に触れてきたつもりだ。それでも、『大丈夫だから』と悪戯に微笑まれたら最後、これまでの苦悩と葛藤はなんだったのかと、箍が外れたように抱き潰してしまう。



 「ほんに……ずっこい」



 その愛おしくも憎らしい頬につぷりと指を優しく突き立てる。起きても構わないと、意地悪い俺だけど。

 ゆっくりまつげを震わせながら蜂蜜色の瞳に俺が映り、弓形に細められる。Aの目に映るもの全てが美しく見えるけぇ。そうしたら、意地悪い俺も綺麗な人間になれた気がした。



 さぁ、天使も起きたけぇ。次はその唇で名前を呼んでくれ。

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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時

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