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たしかにそれは恋だった
彼の好きなところを上げたらキリがないだろう。アタシのことを見つめる真っ直ぐな目が好きで、アタシを壊物のように優しく触れるその手が好きで、アタシを包み込んでくれる大きな体躯が好き――。アタシと真逆の男らしい顔も好き。
「例えばじゃけど、俺が顔に大きな火傷とか傷を負ったらどうする?」
この突拍子もない天然なところも好きなところの一つだったりする。
俺の恋人はこの世の何よりも美しい。Aは顔も美人じゃし気立もええ。弛まぬ努力の人。好意を寄せるのは自然なことで、恋に落ちるのに時間はかからなかった。
『悠岐さん、ご飯粒ついてるわよ』
いつの間にか俺の唇の端についた、米粒を取りながら自らの口に入れるAに口がだらしなく緩むのが分かった。
「ふへへ」
『なぁに? イケメンが台無しよ』
野球しか取り柄のない俺。他に秀でてるものといえば、この身長と……顔か?
そういえば、この間ロッカーで――。
“「A、ギータとどうなの?」”
“『喧嘩もなく仲良くしてるわ』”
“「えー、なんか意外!ギータってわがままだろー?」”
“『うーん、でもあの顔にお願いされると強く言えないのよね』”
“「あーA、ギータの顔好きだもんなぁ」”
って、話してるのを聞いた。決して盗み聞きじゃないけぇ。物思いに耽る俺を他所にAは食後の皿を洗っていた。
『悠岐さん、暇ならコーヒー淹れといてくれる?』
「はぁい」
せっせとコーヒーをいれ、リビングに持っていく。Aのブレンドするコーヒーは美味しい、コクがあり酸味少なめ、Aと共通の好きな味。
皿洗いを終えAが俺の隣に座る。俺の淹れたコーヒーを飲み、ホッと息を吐く。
「なぁ、例えばじゃけど。俺が顔に大きな火傷とか傷を負ったらどうする?」
Aはキョトリと瞬きをする。相変わらず綺麗な蜂蜜のような瞳は、陽の光を浴びてキラキラと輝いてる。
『突拍子もないわね』
「ほぉけ?」
『んー、とりあえず毎日薬塗ってあげる。悠岐さんのことだし自分じゃ塗れないでしょ? それから床に伏せてる間はおもいっきり甘えさせる、かな』
真っ直ぐな蜂蜜色の瞳に射抜かれる。俺の良いも悪いも受け入れてくれる。いつになっても慣れないその瞳に何回も恋をしてきた。
たしかにそれは恋だった――。それは、いつしか愛に変わっていた。
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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時