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「なんで、貴方なんですか」
目の前で肩を震わせて泣く彼女はとても可愛い存在なのだろう。あぁ、彼女はあの人のことを好きなんだ、ってバカでも分かるだろう。いや、天然なあの人は気づかないかもしれない。
『なんでかしらね』
「惚けないでください！ ずるいですよ！ みんなからも好かれてて、美人で、欲しいものなんでも手に入るでしょ？」
確かにこれまでの人生、欲しいものは手に入れてきた。そのための努力は惜しまなかった。朝から晩まで野球漬けで、空いた時間に身形を整え、知性も作法も、全て叩き込んできた。
でも、そんなこと。他人は知らないのよね。
「柳田さんくらい、譲ってくださいよ」
そろそろ練習に戻らないと。あまりにも遅いと、あの人が迎えにきてしまう。
彼女の横を通り過ぎようとしたその時、ガッと彼女に腕を掴まれる。長く可愛らしく飾られた爪が皮膚を掠めた。
『ごめんなさい。あの人がいないと息苦しくなるのよ』
「なぁ、Aに余計なことせんでくれん」
目の前で震える彼女は悲しさとか喜びとかで震えちょらんのは確かだ。その目に浮かぶのは恐怖とかそういったもん、顔色が明らかに悪い。俺、そんなに怖い顔しちょる？
「わ、私はただ！ 柳田さんにはもっとまともな女性が似合うと思って！ いくらあの人が綺麗でも男なんですよ？！ 男同士なんて非生産的ですよ！！」
耳にキーンとくる声やのぉ。ほんと、
「うるさいのぉ」
「え、」
「うるさい言うたんじゃ。それとのぉ、男やけぇ女やけぇ付き合うとるわけやない」
一歩近づくと、彼女は後ろに後ずさる。
「非生産的って時代遅れやけぇ。あ、そのお堅い考え方はAにもこんこんと言わないけんのぉ」
トン、と彼女の背が壁に着く。逃げ場はもうない。
「なんでって、そんなのAやけぇ。それしか答えはない。他の誰でもない、他の誰かじゃいかん。俺はAやないと無理」
「誰の許可を得てAに触った？」
「次、俺らを煩わしたらどうなるか分かるじゃろ？」
「手首どうしたんじゃ？」
『痒くて引っ掻いちゃった』
血が少し滲む手首を掴み、ちゅう、と吸いつく。くすぐったそうに笑うAに笑みが溢れた。抱き寄せ手放せないことを心の中で謝る。
俺はAがいないと
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作者名：ペリー | 作成日時：2020年8月5日 2時
