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ヴィルキンスAは花も綻ぶ二〇代男性である。中身はれっきとした女性であり本人も“オネエ”を公言している。
休みの日はショッピングや美容室など自分の趣味に費やしていた。短く整えられた爪はネイルで彩どられており、ただここ最近ネイルに行く時間がない為セルフでしなければならず頭を悩ませていた。
『このままじゃ汚いし。仕方ない』
自分でやるしかないと考えたその時、隣のロッカーで着替えを済ませた福田が声をかけた。
「ん? あぁ、ネイル? 俺やりたい! 手先器用な方だからやらせて」
『うーん、それじゃあ……お願いしようかしら』
それに、ヴィルキンスは福田に聞きたいことがあった。
福田とヴィルキンスはネイルキットを持ちロッカールームを後にし、グラウンドの片隅へと向かった。
「ヴィルは指も綺麗やなぁ」
『ありがとう』
薄桃色の色がヴィルキンスの爪に乗せられていく。本人が言うだけあって、福田はとても器用だ。塗り残し、はみ出しなく順調に塗り進めていく。
『ねぇ、秀平さん』
「んー?」
『結婚ってどう? 毎日楽しい?』
思いがけない一言に福田は手を止めヴィルキンスを見る。そうして、少し考えてからまた作業に取り掛かった。
「うーん、結婚前と変わらないかな。まぁ、前から同棲してたしね。喧嘩もするし笑い合うし。でも、幸せだよ」
『そっか』とヴィルキンスが呟く。チラリ、と福田は一瞬ヴィルキンスの表情を覗く。
「なに、余計なこと考えずに。彼奴に幸せにしてもらいなよ」
きっとこのチームで、いやこの世界で、誰よりもヴィルを想ってるだろう。あの日、初めてヴィルキンスAを知ったあの日から、彼奴の中には野球とヴィルしか居ない。
「あんなにお前のこと想ってる奴いないぞー?」
『――そうね』
「答えはシンプルだよ。好きか、そうじゃないか。一緒に歳を取りたいか、取りたくないか。なぁ、答えは簡単なもんだよ」
「そうだろ? ヴィル」爪を塗り終わった福田が、くしゃり、とヴィルキンスの頭を撫でる。
どうしても変に不器用な後輩、弱音を少し吐き出せるようになっただけ成長か。
福田は目の前の後輩の頭を、少しだけかき乱すように撫でるのだった。
「あー! 秀平なにしちょるんじゃ!! 奥さんに言うぞ!!」
「げっ! うるさいの来た」
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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時