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ヴィルキンスAは苛立っていた。ストレスはお肌に大敵と言って溜め込む事を嫌っていたが、数年ぶりに形容し難い苛立ちに苛まれていた。
はじめはひっそりと私物が消えたことから始まり、それは徐々に大胆になりロッカーまで荒らされ始めたのだ。
誰かに相談すべきという事はヴィルキンスも重々承知であるが、現在シーズン中であり、ましてや自分のような新参者が先輩やスタッフの方々のお手を煩わすのは忍びない。ヴィルキンスは誰にも告げず、胸の内に仕舞うことにしたのだ。
人知れず溜め息が多くなる毎日。それに気づかないチームメイトは誰一人としていないことを、ヴィルキンスは知らない。
「……最近のAさ、溜め息ばかりついちょるよな」
「ギータも気づいた?」
「おう。どうしたんやろ…」
バッティング練習をしてるヴィルキンスを遠目に話すのは柳田と中村であった。普段からヴィルキンスに近い位置にいるこの二人は、誰よりも早くヴィルキンスの異変に気づいていた。
そんな二人を他所に練習を終えたヴィルキンスに一人の球団職員が近づくのが見えた。にこやかに話しかける職員の男に対し、ヴィルキンスは困ったように笑いかけ首を振っている。
「……誰」
「ギータ、顔! 顔やばいよ!」
「あれ最近入った職員だろ」
「うわっ!! 松田さん! 内川さんも! 急に出てこんで…」
二人の後ろにいつの間にか松田と内川が立ってヴィルキンス達の様子を伺っていた。松田の一言に柳田は益々男の方を凝視するのだった。
物憂げな表情がヴィルキンスの色気を引き立てていた。ロッカールームでシャワーを終え着替えも済ませたヴィルキンスは、一つ溜息を溢した。実のところ今日初めての溜息ではない。
隣のロッカーで着替えをしていた中村と福田が、その様子を見かねて声を変える。
「ヴィル、どうしたの?」
「溜息ばっか吐いてたら幸せ逃げてまうぞー」
『え、あぁ! ごめんなさい、アタシったら』
ロッカーを隠すかのように背を向けるヴィルキンスに中村はどうにかその中を見ようとするが、ヴィルキンスの方が背が高い為その中は見えなかった。どけよ、と不満そうに言うもののヴィルキンスは苦笑いを溢すだけだった。
しかし、背の高い福田がヒョイっとヴィルキンスの背後に回る。そしてヴィルキンスのロッカーを見るとギョッと目を剥いた。
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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時