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閑話1 ページ18

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 杉谷拳士には弟であり妹でもある、そんな不思議な幼馴染みがいる。幼馴染みの名前は、ヴィルキンスA、二つほど歳が離れていた。

 ヴィルキンスの口癖は『ケンちゃんのお嫁さんになる』で、杉谷もそれを甘じて受け入れていた。

 しかし、彼が本当は男の子であると知ったのはヴィルキンスが小学校に上がる頃だった。杉谷もヴィルキンス本人も自身は女の子であると信じていたため大泣きしたというエピソードがある。



 「二人とも、こっち向いてー!」

 「カワイイ! A! ケンシクンモ!」

 春、某所。とある小学校で入学式が行われた。ものすごく目立っている家族が二組、校門前で騒いでいた。ヴィルキンス家と杉谷家である。
 この春ヴィルキンスは杉谷と同じ小学校に入学したのだ。二人は手を繋ぎカメラにピースをする。

 「A? どうしたの?」

 ニコニコする杉谷の隣でヴィルキンスは眉を下げ、周囲を見回した。
 チラホラといる参列者達が二人を見つめる――ただしくは、ハーフであるAを物珍しい目で見ているのだ。引っ込み思案であったヴィルキンスは周囲の視線が恐ろしくて仕方なかった。

 『……ううん、なんでもないよ』

 そんな心情を察してか、杉谷は繋いだ手に少し力を入れ直し両親の元へと駆け寄った。
 ぐいぐいとAを引っ張ってくれる杉谷。掌から伝わる体温や、キュッと繋いだ手にヴィルキンスが力を込めると握り返してくれる、そんな杉谷にAは鈴を転がすように笑ったのだった。



 自分のクラスのホームルームが早く終わった杉谷は、一年生の教室に、幼馴染みの様子を見に来ていた。ちょうど後ろのドアは開いており、杉谷はこっそりと中を覗き込んだ。
 どうやら自己紹介をしており、タイミング良く次はヴィルキンスの番であった。

 『ヴィルキンスAです。すきなたべものは、しおむすびです。すきなものは野球です。なかよくしてください』

 「はい! ヴィルキンスくん自己紹介ありがとう。先生もスポーツは好きだよ! 今度みんなでやろうね。それじゃあ次は鈴木くん――」

 クラスメイトへ自己紹介をする時間、杉谷は教壇に立つヴィルキンスの一挙一動を見逃すまいと瞬きも忘れ見つめた。ぺこっと頭を下げて自己紹介を終えたヴィルキンスが席に戻るまでクラス中が彼を見つめ続けていた。

 その異様な光景に再び杉谷は眉間に皺を寄せるのだった。

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作者名:ペリー | 作成日時:2020年8月5日 2時

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