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中村は記憶を辿るが、どうしても思い出せないでいた。
なぜか高校の後輩であり、同じパ・リーグの他球団にいる騒がしくも、何処か可愛げのある男が頭に過ぎったのだった。
「今日でキャンプ開始から一週間経ったが、皆んなどうだ？ 順調か？ っとまぁ、どうやらそれどころではないらしいな！ お前達の視線がさっきから物語ってるから出し惜しみせず紹介しようか」
工藤は普段見ないメンバーの正直な視線に笑いながら、隣に立つ青年を見上げた。
青年がその視線に気づき帽子を外す。帽子をしていたから気づかなかったがブロンドヘアーの青年だ。短く髪を結んでいたが、ただ毛先は菫色と奇抜であった。帽子を外した青年の姿に誰もが息を呑んだ。
とても美しい顔を持つ青年だ。睫毛が長く、目元に影を作り出している。その整った鼻筋も肌も何もかもが象牙色をしていた。ただ唇だけは淡い薄桃色であり、中性的な男とは此の青年のことを指すのだろうと中村は感じた。
“「晃さん！ こいつ、俺の幼馴染の―――」”
記憶の中で後輩が笑う。
「彼はヴィルキンスA。会長自らがアメリカからスカウトして去年の夏から二軍で実績を積み、めでたく今年から一軍に昇格した」
監督からポンと腰を叩かれ、ヴィルキンスが一歩前に出る。
『ヴィルキンスAです。ヴィルでもAでも好きな方で呼んでください。ポジションはライトです。あと、アタシは心は女なので変わっているところもあるかもしれませんが、あまり気にしないでください』
突然のカミングアウトに一同が呆然としながら、中村はふと思い出した。
「あー！！」
あまりの静けさに中村の声は思った以上に大きく響いたらしく、視線が中村に注がれる。ヴィルキンスも声の主に視線をやると、目を僅かに見開いた。
『あら、ケンちゃんの』
「確か、拳士の」
「え、晃知り合いなの？ どうゆうこと？！ ねぇねぇ！！」
隣に並んでいた柳田が肩を揺すってくる。
そうだ、彼は自分が可愛がっていた後輩にくっついて離れなかった少年ではないか。確か、アイツが卒業すると同時に留学したと聞いていたが、そんなまさか此処で再開するとは―――。
騒がしい朝礼も終わり各々が練習準備に入る中、ヴィルキンスと中村はペアになりストレッチを行なっていた。いろんな方面から彼等に視線が突き刺さる。
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作者名：ペリー | 作成日時：2020年8月5日 2時
