噂の恋人 (ページ32)

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　これぞ、光源氏計画ってやつか。

　「Aちゃん、光源氏って知ってる？」

　みんなが練習してるのを元木ヘッドの隣で見ていると、誠司くんが話しかけてきた。

　『なーにそれ！ご飯屋さん？』

　「あ、ダメだ。Aちゃんおバカだった」

　むっ、バカにされて怒ってると、元木ヘッドから「可愛い、可愛い」と頭を撫でられる。光源氏ってなんなんだろう、あとで亀さんに聞いてみよう。

　『亀さん、亀さん』

　ベンチに近寄ると、Aにいつものように呼びかけられる。昔から変わらない呼びかけに心が暖かくなる。

　「どうしたん？」

　ベンチ前の壁に座り寄りかかると、Aの両手を握る。勇人は、またや、と分かりやすい程の呆れ顔をするが気にならない。

　『光源氏ってなぁに？』

　何人かが、ぶーっ、と飲み物を吹き出す。汚ねぇな。誰かが余計なことを吹き込んだことは明らかだった。

　「光源氏ねぇ。昔のアイドルの名前や」

　『そうなの？誠司くん昔のアイドル好きなのかなぁ』

　「あいつ変わっとるし、そうなんちゃう？」

　『ふーん』と既にAの興味は失せたらしい。誠司か、あの野郎。視界の隅で奴がコソコソとベンチから出ていくのが見えた。今はいい、あとで締める。
　側から見たらそうだろうな、まさに光源氏。目の前でニコニコと話しかける愛らしい彼女は若紫だな。

　初めて出会ったあの日、まだ幼いAを9年間もかけて大事に大事に愛でた。歳を重ねる毎に美しくなる彼女は俺の自慢でもあったし、焦燥感も駆られていた。その後5、年も離れていたが、今はもうそんなことどうでもいい。

　「あ、せや。内海からAの写真送ってもらったわ」

　『え！なんか恥ずかしいよー』

　「逃げんな。ほら、かわええやんか」

　逃げ出そうとするAを捕まえて背後から抱きしめながら写真を見せる。

　「お？見せて見せて」

　「天使かよ！昔から可愛いじゃん」

　『わぁ！も、もうやめようよー！』

　恥ずかしさで耳まで真っ赤に染めるAの耳に軽くキスをする。くたっと全身の力が抜けて俺に寄りかかる、その身体を抱きしめた。

　Aは昔から天使のように愛らしい。その背中の翼を使って飛び立つことは、もう二度とないけれど、光源氏のように俺好みに育てたわけでもない。ただ、二度と俺の側から離れないように、飛んで行かないようにしただけだ。

　まぁ、これぞ光源氏計画ってやつなのかな。俺流の。