百八話 ページ34
『...私にはドフラミンゴに執着する理由がありませんでした。
でも、命を懸けて立ち向かえたのはキャプテンに死んで欲しくなかったから。クルー達に合わせる顔もありませんし。
私はドフラミンゴに対して持っていた感情は＿＿＿＿同情でした。今でも正解は分からないですが。
彼は愛を知らずに育った。そして、仮初の家族を作った。
ソレに私はどうやら“可哀想”という感情を持っていたようです。
彼に...あたたかい手は差し伸べられなかった。一歩一歩遠ざかって、もう戻れない場所まで来てしまった。
ここまで来てしまえば、もう手に負えない。力をつけたのであれば、尚更』
｢...何が言いたい｣
独り言だと言ったのにも関わらず、ローはAの言葉の真意を聞いた。
彼女の視線は遠くを見つめたまま、答えた。
『“愛”の形は人それぞれ。でもそれを他人に押し付けることは許し難い。
＿＿＿＿＿＿それだけです』
傾く太陽に照らされた彼女の横顔は神秘的に見えた。
隣の彼は彼女の横顔を見たあと、左手で帽子を深く被る。
次は、彼が口を開いた。
｢お前に聞きたいことは山ほどある。だが今、聞いておきたいことが1つ、言っておきたいことが1つある｣
『...何でしょうか』
｢お前の本名は何だ？｣
ほんの少しだけ、言葉がつっかえてしまった。
でも、信頼する彼なら答えねばならないと彼女は己の名前を口にした。
『＿＿＿＿＿ヴァイシェル・D・A
...今まで黙っていて申し訳ありません』
話す気もなかった自分の本当の名前。
自分の全てを忠誠を誓う彼に対し隠していたことを、今このタイミングで話したことが、彼女は酷く後ろめたい気持ちになり視線を下に落とす。
数秒間、風の音が空間を揺らしたが、今度は彼が口を開いた。
｢＿＿＿＿＿トラファルガー・D・ワーテル・ロー
互いに隠してたんならおあいこだな｣
『キャプテンも“D”を持っていたんですね』
｢あァ、俺の恩人は偶々俺の本名を知り元天竜人であるドフラミンゴから俺を引き離した。
俺はあの人から心と命をくれた。
雪を見るとあの地獄を思い出して、この世界をぶっ壊してしまいたいほど狂ってたガキの頃の俺を。
...俺の昔話は追々するとしよう。アイツらも混ぜて、な｣
『そうですね...あ、あと言っておきたいことって？』
その時の彼の顔は花畑に似合う優しい顔をしていた。
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作者名：つんてん | 作成日時：2022年11月3日 19時
