明日の天気は晴れですか？【特撮短編集】

◆羞恥心を重ねて / 浅倉威 ページ19

⚠口移し表現あり⚠

------------------

・

焚き火はパチパチと音を立て、辺りに2人分の影を作り出している。時計がないため時刻はわからないがだいぶん前に日が落ちてしまったことから、夜も更けてきたということは予想がついた。時折吹く風が酷く寒くて、焚き火へと手をかざしながらちらりと隣の男の手元をみる。

竹串で貫かれ、火で炙られている妙な哀愁を漂わせているそれ。

「今日はトカゲ？」
「あぁ」
「ふふ、そっかぁ」

トカゲが夜ご飯だなんて久しぶりかも。ここのところカップ焼きそばだったためか、ゴミが周りに散乱していてなんとなく心地が悪かった。

トカゲ、か。今では慣れたものだけど、半月ほど前にトカゲが動いてるのをみて浅倉くんに抱きついちゃったのは私の中で忘れることはない記憶だ。あの時は土下座をする勢いで謝ったけどほんとうにごめん、浅倉くん。

浅倉くんはひとつ串をとり、それを口へと運ぶ。トカゲは一瞬のうちにして3分の2の大きさへなってしまった。もぐもぐと動く口がなんだか可愛い。

「やるよ」
「わっ、ありがとう」

流石にじーと食事シーンを見つめるのはまずかったかな。居心地が悪そうな浅倉くんから差し出された食べかけのトカゲを受け取る。

うん、美味しそう。トカゲはちょっと……と思っていた時期もあるが鶏肉と似た食感で今では楽しみな食事の1つへとなってしまった。
口へと串を運ぼうとしたがふと、ある考えが頭をよぎる。

食べかけってことは、浅倉くんと間接キスするってこと？

いやいや、私、思春期じゃないんだからそんな気にすることじゃないでしょ。今どき高校生カップルでもすることだし。子供の頃に近所のお兄さんとかクラスメイトの男子とかとしてきたはずなのに、どうしてか浅倉くんと間接キスするってなるととても恥ずかしい気持ちになってくる。

羞恥心でぐらぐらしている思考に思わず口を閉じる。

「いらねぇのか？」
「あ、いや、別に食べたくないわけじゃないけど」
「あ？だったらなんだよ」
「わ、笑わない？」
「さぁな」
「……間接キスだなぁって思ったというか」

なんというか……ごにょごにょと言い訳じみたことを口にする。目を点にしてこっちを見る浅倉くんをみて言わなきゃよかったと後悔した。

・→←・

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す