しにたがり姫 (ページ39)

今日:6 hit、昨日:0 hit、合計:1,198,158 hit

26 ページ39

:

この高校には自販機が極端に少ない
寮内の共有スペースにも設置されているがあまりにも種類は少なく
結局校門の近くまで買いに出ていくことが多い

寮に戻ってしばらく掃除をして時間を潰していたが
授業も任務もなく、特に他に予定もないので気分転換がてらに
散歩も兼ねてジュースを買いに来た

伏「…は！？」

『…？』

ブドウかリンゴか悩んでいたところで校門の方から
田舎の静けさには似合わない大きな声が聞こえ

振り返ると丁度校外から戻った恵が目を見開いて固まっていた

『おかえり。どこ行ってたの？』

伏「おまっ…なん…、生きてんのか？」

『生きてるよ。五条先生から聞いてないの？』

伏「聞いてねえよ。…はぁ、まじで、アイツ、…」

あからさまに苛々して頭を掻きながらこっちに向かってくる恵

悟が連絡を忘れるのにはもう慣れっこなのか
すでに状況を察知してもういつもの不機嫌な恵に戻っている

伏「どれだよ。」

『…奢ってくれるの？』

伏「俺も買うからついで。」

『待ってね、今ブドウかリンゴか悩ん…』

伏「ブドウな。」

『…。』

言い切る間もなくブドウのボタンを押されお釣りが落ちる音が響く
買ってもらった以上文句は言えないが急にリンゴが恋しくなってきた

案外再会もあっけないもので
ジュースを受け取るとそれ以上何も話すことはなく2人で校舎の方へ向かう

恵が知らなかったということは野薔薇も知らないのだろう
後で部屋に行って説明をしなければ

伏「…悪かった。」

『なにが？』

伏「俺がお前の呪力をちゃんと把握できてたら、ああはならなかった。」

伊地知さんが言っていた恵が施設から連れてきたのは
私の姿をした傀儡だったという話を思い出す

恵が間違えたのならかなり精巧なものだったのだろうが
そのせいで恵は責任を感じているのかもしれない

『いや、捕まったの私だし。…次は、ちゃんと見つけてくれる？』

伏「当たり前だ。」

励ましたところで残った傷も後悔もなくならない
責める気など微塵もない
全部、自分の所為だから

これ以上、慰め合いは必要ない

『どこ行くの？寮あっちだよ？』

伏「グラウンド。」

『なんで？』

伏「交流会のために2年の先輩が稽古してくれてる。」

『交流会？』

伏「あの人に聞いてないのか？」

『…？』

伏「…。」