46：有り得ない役 ページ5
信じるだとか信じないだとか。
甘いのよ。
そう内心で呟きながらも、最後のトドメを刺すべく妥協はしないハイネスは一枚カードを交換したところでコールとなった。
そんな彼女をずっと近くで見守ってきたフィンは、おそらく彼女の敗北を予測できていたのだろう。たまには、ハイネスにも敗北を知ってもらわねば、と珍しく閉口していた。
固唾をのんで、兄とエレシュキガルを見守る樹。
これで勝つか負けるか…それはあくまでゲームだというのに胸騒ぎがするのは何故だろう。
正直、勝ったって負けたっていいのだ。
なにかしらの手段でここで全額棒に振ったって、別の手段があるだろうしここで必ず勝つ必要などない。
けれど。
「勝ってほしい」
「問題ないだろう。普段のハイネスならわからないが今のあの状況…冷静さを失って勝てるほどの弱者でもないのだろ。君の兄は」
「お姉さんには申し訳ないけど…うちの兄貴が負けるとこなんて想像できないから。うん、大丈夫だ」
「(それにしても、あの明らかな煽り方…おそらく故意的に仕掛けているもの。全く侮れない男なのだろう)」
いよいよ、コールの時。
自身の決断もあってか責任をひしひしと感じているエレシュキガルはあわあわとしているわけだが、碧の態度といえば堂々としたもの。手持ちをみていないというのにその自信はどこからくるというのか。
「では、ハイネス様からコールを」
「クイーンのフォーカードよ」
ディーラーからコールを求められれば、湧き上がる歓声。
その歓声を聞く限りおそらく今日一番の引きの強さだったのだろう。そんなことを彷彿とさせる今、更にエレシュキガルの不安は最高潮に達しようとしているわけだが。
そんなことは待ったなしで碧のコールがやってくる。
「では、続いて碧様のコールを」
それはまるでスローモーションのように時が過ぎたように思えた。
ハイネスは目を疑った。こんなことはあり得ない。あり得てはいけない。
ましてや、こいつにだけは絶対に負けたくなかったのだ。こんな甘ったれた男にだけは。
「僕の勝ちかな」
碧によって示されたカードはハートの10から始まるストレートフラッシュ。
通常、揃うことは奇跡といわれるこの役を実際に目にしたディーラーも目を疑った。
これまで数あるポーカーを目にしてきたがあんな滅茶苦茶な戦い方でハイネスに勝つだなんて。
湧き上がる歓声に未だに現実が受け止められない彼女は言葉を失うのだった。
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