63：友人の残した言葉 ページ23
"役割"を放棄したこと、全く役立てていないこと…その他にも思い当たる節は数々あるわけだが、その１つ１つをしっかりと聞いてくれた。飽きずに、呆れずに聞いてくれた。
ただそれが。それだけのことがこんなにも私にとって必要なことだったって私自身だって気づいていなかった。
"思い切って相手に打ち明けてみるの。そしたら、悩んでいた自分が馬鹿みたいになるときだってあるんだから。貴女はもっと、甘えていいのよ！だから思いっきり甘えてやるの。女の子なんだから！そのときがきたら、きっと、わかると思うわ"
もっと話していたかった。
もっと、いろいろなことを教えてほしかった。
彼女ともっともっと、仲良くなりたかった。
心の中に込み上げるこの思いは知らない。
彼女が逝ったのは冥界ではない。きっと座に還ったのだ。だから次に会える可能性はゼロに近い。
そっか、私、彼女と会えないことを寂しく思っていたのね。
気付けば、感情が表にでることは必然で。
そんなエレシュキガルを見据える碧は言葉を紡ぐ。
「樹が言ってたよね」
「"兄貴は割り切れるのかよ"って。ある意味、僕は割り切れているのかもしれない。僕は樹ほど"人間らしく"もないんだろうね。でも、一方的な殺戮はただの虐殺だ。それは見過ごせない、見過ごしていいことじゃない」
激戦の末の死なら潔く認める。
それは、きっと本人も納得しての死を迎えるのだから間違ったことじゃない。
人間であるよりも前に魔術師である以上、一方的な殺戮も認めざるをえないのかもしれない。
だけど、あんな残忍な殺し方。見過ごしていいわけがない。
「碧。怒っているの…？」
「え？僕が、怒ってる…？怒ってるのかな、怒ってるのかもしれないね」
「ごめんなさい。私がもっとしっかりとしていれば気づけたかもしれないのだわ」
「ねえ、エレシュキガル。さっきから謝ってばかりだけどそれをいうなら。僕だって一切、マスターらしいことなんてできてない。だから僕たち、お互い様だったんじゃないかな」
「お互い様…？」
「そう。お互い様。たぶん樹なら、"つかぶっちゃっけお互い様だろうがっ"って僕たちに一喝いれるんじゃないかな」
「ふふ、確かにそうかもしれないわね。樹ならそう言う気がするのだわ。頭に１つずつ拳をいただきそう」
視線を通わせればくすりと笑う二人。
事態が加速するまでは、もう少し。
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