54：土煙 ページ14
アレキサンダーと合流し、カジノ前で会話をする樹たち。それから間もなくしてだ、彼が現れたのは。
｢そういえば、ハイネスさんが言ってた人ってそろそろここにくるのか？なんか気のせいか逃げるように去っていった気がするんだけど｣
｢…うん、もう近くまで来てるかな｣
マスターの魔力反応を感じ取ったのか、背後に視線をむけるアレキサンダーの方を見つめれば気の所為だろうか。心做しか土煙が…いや、気の所為じゃないぞ、あの土煙。
それはそれはもう尋常じゃない土煙がこちらに向けて近づいてくるではないか。
｢な、何事なのだわ？！！｣
｢ごめんね。女神様にはうちのマスターは刺激が強いかもだ｣
｢いや刺激どころか、あれまじで走ってきてるじゃん…しかも煙やばすぎて本人みえないし。止まれるのか、あれ｣
｢ふふ、止まれるんじゃないかな。あれは強化魔術みたいだし…それにしてもすごい速さだね｣
｢感心してる場合ではないと思うのだけれどっ｣
そそそと碧の背後に隠れ様子をみるエレシュキガル。そんな彼女の不安とは裏腹にそれは確実に距離を詰めてくるわけだが、出くわした瞬間戦闘開始なんてないよなと息を飲む樹。
だがそんなことになるはずもなく…というか、それ以前に実際の人物の顔をみた瞬間、樹は思考停止せざるを得なかったのだ。
｢なんとか間に合ったようであるな｣
｢マスターお疲れ様｣
｢？！！！｣
｢え、少s…むぐぐ｣
禁断の言葉をはこうとする兄の口を必死に塞ぐ樹。
いや決して失礼な発言をしようとしたわけではないのだが、何故か反射的に止めてしまったわけなのだが。
彼が目にした光景は兄弟の仲睦まじい姿。
樹からすれば兄の発言を止めようと飛びついただけであったわけだが、彼からのビジョンは違った。
背景にはキラキラさえも見えるようなそれはそれは美しい兄弟愛。
そんな純粋な愛を目にした彼はというと途端ドバーっと音が聴こえるくらいには号泣し出すのだから、あわあわし出すエレシュキガルなのだった。
｢だ、大丈夫なのかしら…えっと、大丈夫…？｣
そっと碧の前にでるエレシュキガルとばっちりと視線があう彼。
がしりと手を握られ、｢ひっ｣と声がもれるエレシュキガルであるわけだが彼にはお構いないようで全く動揺のひとつも見せないのだった。
｢お心遣い感謝しよう、よもやメソポタミアの女神にお会いできるとは｣
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