letter*09 ページ11
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反転する世界と、ぽつりぽつりと雫が滴る音。
見慣れた天井ではなく視界には、頬1つ染めない平然とした整った顔立ちを捉える。
「いつまでこうしているつもりだ」
「問題でもあるのかしら」
「はぁ…お前のその試すような物言いは癖か?」
「ねえ、そんなことより寒いのだけれど」
その女に似つかわしくもないかわいらしいくしゃみが響く。
「くしゅん…」
「馬鹿なのか?それとも阿呆なのか…。お前から滴る雫で俺も濡れているのだが」
「気づいているわ?けれど、同罪でしょ。貴方が居留守なんて真似しなければこうはならなかったのだもの、違うかしら」
「それはそもそも!………チッ」
そのとき、確かに男は理解した。
発端で既に自分に非がある以上、なにを言っても無駄だということを。
堂々巡りをする会話には無論、自身のペースを乱されていることにも。
本来の自分ならばイラつくはず。だけど、不思議とそこまで嫌な感情はそこにはなく。
「ねえ、今、舌打ちした?」
「さあな」
「いいえ、したわ。意外と子供ね」
「それはお前だ。随分と他人の揚げ足取りがうまいようだ」
「私は"お前"じゃないわ」
「ハッ。"お前"で十分だろう。じゃじゃ馬にお誂え向きだ」
「早く浴槽に水をはってくださる?貴方を沈めて差し上げるわ」
「寝言は寝て言うんだな」
「永遠の眠りにつかせてやろうかしら」
そんな実にくだらない軽口も今となっては良い思い出。
思えば、あの時、自室に彼女を招いてしまったときから男は彼女の世界に魅入られたのかもしれない。
今までに経験したこともない、実の弟とでさえここまで言葉を交わした記憶はなく。
男にとって彼女はいうなれば"未知"。
その感情は時を重ね思いを重ね、そしてそれは確かな形を成していったのかもしれない。
「ブーゲンビリア大佐。失礼致します…お休みになられておりましたか…」
「夢、か」
「は…?」
「用件を伝えろ。手短にだ。」
「はっ。軍司令部より、急ぎ召集されたしと。」
「わかった。すぐに向かう」
扉が静かに閉まるその音と共に、雨に濡れるライデンに思いを馳せる。
"雨のライデンは好きよ"
"変わっているな。雨など面倒事ばかりじゃないか"
"そうでもないわ。ほらみて、こんなにも幻想的な景色は他にないわ"
なにを見ても彼女を思い出す。
思い出したところで無意味だというのに。
それでもその無意味な行為を繰り返してしまうのは何故だろうな。
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湊(プロフ) - 華蓮さん» 初めまして。ご愛読頂きありがとうございます。こちらこそ素敵なお言葉をいただいてしまい頭が上がりません。サイドストーリーもぼちぼちあげようかと考えておりますので暖かく見守っていただけましたら幸いです。コメントいただきありがとうございました! (2020年10月13日 12時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
華蓮(プロフ) - 初めまして。連載お疲れ様でした。毎回、更新を首を長くして待っていました。もし、サイドストーリーをお書きになるのでしたら、楽しみにしています。本当に素敵で、大好きな物語でした。ありがとうございました。 (2020年10月12日 21時) (レス) id: d2c438ab67 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - kさん» 初めまして。こちらこそ本当に本当にありがとうございます。こちらこそ本当に嬉しくて言葉ではいい表せないくらいに幸せだと感じています。もう時効だと思うんです。だからやっぱり彼にも幸せになってもらいたいなって。ありがとうございます。 (2020年10月11日 10時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
k - 本当にありがとうございます…どうしても読みたかったディートフリートの話を読ませていただけることが嬉しくて溜まりません。綺麗で素敵な言葉の綴り方が本当に大好きです。この場では感情が収まりきりません。本当に大好きです。更新心から楽しみにしております。 (2020年10月11日 9時) (レス) id: 5205b065eb (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - Rioさん» はじめまして。素敵なご感想ありがとうございます。とても嬉しいです。完全なる趣味小説でして誰にも見向きもされないかもなと筆をとったので本当に心強いです。ディートフリートは誤解されがちですから。少しでも彼を救えたらという思いで頑張らせていただきますね。 (2020年10月10日 8時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
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