letter*03 ページ5
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列車に乗り、船を乗り継ぎ。ライデンを出たのは確か3日前。随分と遠くまで来た。
艦は乗りなれていたが、船には乗りなれない。
平時である今でさえ、どこか警戒心が解けないのだ。
「こんなでは、敵艦に沈められても何も言えないわね」
見合いをすっぽかし、両親にさえなにも告げず彼女が訪れた地。
そこは遠く離れた島だった。
名をエカルテ島。
かつての戦線の傷が色濃く残るこの地に降り立つ者は数少なく、乗降するだけでも彼女は道行く者の目を引いた。
行く先は決まっている。
荷台に乗せてもらい他愛のない会話を交わし、景色に思いを馳せる。
ウェンディは、かつて名を馳せた自動手記人形に会いに来たのだ。
最初で最後の手紙を。
その代筆を彼女に依頼するために。
「ジルベール先生の学校はこの先だよ。ひとりで大丈夫かぃ?」
「ええ、問題ありませんわ。ご案内いただきありがとうございました」
丁寧でそれでいて洗練されたカーテシーに時が止まる。
きっとこういったものを美しいと表現すべきなのだろう、と彼女を見送り残った感情はただただ尊いものだった。
古く年気の入る石造りの建造物を抜け、植えられた紫色のパンジーに手を触れる。
そこに瞳を映したから。
美しいと感じたから。
元軍人といえど女性には変わりなく、彼女にもまた花を慈しむ心は備わっていた。
「お姉さん、だれー?」
「また郵便屋さん?」
「でも、ホッジンズじゃないぞ?」
「初めまして。私はウェンディ。ジルベール先生に会いに来たの」
「「ジルベール先生に…?」」
声色を揃える現地の子供たちに首を傾げるウェンディ。何故そこまで疑問を感じさせるのか彼女には理解ができなかったが大きな問題でもないだろう。
それにしてもこの好奇心に満ち満ちた子供たちの視線はなんなのだろうか。
その問いを投げる前に、ひとことを放つのもまた彼らであったわけだが。
「お姉さん、すっごく綺麗な人だけど。先生だけはだめだよ!」
「先生には、ヴァイオレットがいるんだもん」
「なるほど。そういう誤解を…問題ないわ。自分より弱い男には興味ましてや、恋愛感情などないから安心して?」
などと言った日には子供たちの空気が凍りつく。
照れ隠しだとか、本心を偽るためだとか。そういった類の様子は一切なくただそれが、彼女の本音であることは子供さえも顕著に理解できたためだ。
「先生とは同期…いえ、腐れ縁というやつなのよ」
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湊(プロフ) - 華蓮さん» 初めまして。ご愛読頂きありがとうございます。こちらこそ素敵なお言葉をいただいてしまい頭が上がりません。サイドストーリーもぼちぼちあげようかと考えておりますので暖かく見守っていただけましたら幸いです。コメントいただきありがとうございました! (2020年10月13日 12時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
華蓮(プロフ) - 初めまして。連載お疲れ様でした。毎回、更新を首を長くして待っていました。もし、サイドストーリーをお書きになるのでしたら、楽しみにしています。本当に素敵で、大好きな物語でした。ありがとうございました。 (2020年10月12日 21時) (レス) id: d2c438ab67 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - kさん» 初めまして。こちらこそ本当に本当にありがとうございます。こちらこそ本当に嬉しくて言葉ではいい表せないくらいに幸せだと感じています。もう時効だと思うんです。だからやっぱり彼にも幸せになってもらいたいなって。ありがとうございます。 (2020年10月11日 10時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
k - 本当にありがとうございます…どうしても読みたかったディートフリートの話を読ませていただけることが嬉しくて溜まりません。綺麗で素敵な言葉の綴り方が本当に大好きです。この場では感情が収まりきりません。本当に大好きです。更新心から楽しみにしております。 (2020年10月11日 9時) (レス) id: 5205b065eb (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - Rioさん» はじめまして。素敵なご感想ありがとうございます。とても嬉しいです。完全なる趣味小説でして誰にも見向きもされないかもなと筆をとったので本当に心強いです。ディートフリートは誤解されがちですから。少しでも彼を救えたらという思いで頑張らせていただきますね。 (2020年10月10日 8時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
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