St.Valentine*-07 ページ32
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私にとって、貴女という女性は"憧れ"そのものでした。
最後に耳にした彼の言葉が今も心に残る。
手向けの言葉のようでいて、それはどこか悲しみを秘めた別れの言葉のよう。
夕陽が沈み、月明りを頼りに白椿の庭をひとり歩く。
自分の気持ちに、言動に責任を持つこと。
人を傷つけるということ。その重みを改めて実感したとき、こぼれそうになる涙を必死にこらえた。
涙を流しては、まるで彼を憐れんでいるようで。
自分を甘やかしているようでいて許せなかったのだ。
傷つけた私にそんな資格などないことくらい、理解していたはずなのに。
「ウェンディ」
どうしてこんな時に限って、優しい声で。
この人は、私の名を呼ぶのだろう。
「いつからここにいたの」
「今来たところだ」
「本当に嘘が下手ね」
不意に抱き寄せられると、
その涙の
彼が問うことはなく、ただただ涙が枯れるその時までの静寂。
夜風の吹き抜ける音と草花の香り。
その中に私と彼だけの世界がまるで取り残されたような、そんな感覚に襲われる。
「ねえ、ディートフリート。私、」
本当は、人を傷つけることの意味を知らなかったのかもしれない。
「私、」
違う。本当は、わかっていたのだ。
「わかってた、」
だけど、自分可愛さに私は、彼を―。
「傷つくとわかっていたのに。言うべき言葉じゃなかった、たとえそれが本当の気持ちだったとしてもあの時私は自分の奥底にある心を偽ってはいけなかった…自分可愛さに私は、その寂しさを紛らわすために彼を」
利用していたの?
背筋が寒くなる。
こんなにも自分を恐ろしく思う日はなかった。
だとすればなんて醜く、醜悪な女なのだろう。
自責の念に捕らわれ、どうすればいいのか。どうすべきか、わからなくなる。
そんな時分、頬に触れられ視線を通わす翡翠はまるで何かを諭すかのように揺れていた。
「後悔のない人間などいないだろう。それに、お前は彼の気持ちを踏みにじったのか。一時でも彼に傾けた心に偽りはあったのか」
「私は、私は。あの気持ちに偽りなんてなにひとつないわ」
「ならば、あの男がお前に自分は利用されたとそういったのか」
「いいえ、いいえ」
「それならば、答えはもうでているだろう。泣きたいときに泣いて何が悪い」
彼のあたたかな手に甘えてしまう。
そんな私は、やはり卑怯だろうか。
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湊(プロフ) - ユキさん» 初めまして、コメントいただきありがとうございます。少しでも作品の素晴らしさをお伝えできるよう今後とも頑張らせていただきますので、どうぞよろしくお願い致します。 (2021年10月31日 11時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
ユキ(プロフ) - 初めまして。素敵なお話をありがとうございます! (2021年10月30日 13時) (レス) id: fb083d1d07 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - 小桜さん» そんなそんな。こちらこそお待ちいただけるということ程、本当に心強いことはなくて。こちらこそ、本当にありがとうございます。 (2020年12月27日 20時) (レス) id: ab18fde111 (このIDを非表示/違反報告)
小桜 - 更新ありがとうございます!本当に素敵な作品です!これからも更新待っています!! (2020年12月27日 9時) (レス) id: 67fd5c2fc4 (このIDを非表示/違反報告)
湊(プロフ) - れいさん» 初めまして。あたたかいコメントいただき私も胸がいっぱいです。お手に取っていただき、そして素敵なお言葉をかけてくださり心から感謝を。引き続きお楽しみいただけるよう精一杯頑張らせていただきます。コメントいただきありがとうございました! (2020年12月27日 9時) (レス) id: 83bbd53189 (このIDを非表示/違反報告)
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